その瞬間まで

L8 金子侑司 ページ45

.




「ん、なぁ、河西さん」

『…ん？』



あなたはいつもクラスの中心にいて
私はいつもクラスの端にいつもと同じメンバーといて



「河西さん西武好きなん？」

『…うん、そう』

「この間の試合やばかったな！」



接点なんてないし、親しくもない
だから話すことだって何もない

それでも、



「ん？」



目が合えば笑ってくれるし、
私がどんなに人見知りをしても話してくれる

とてもとても、優しい人

だけど突然、そのことが恥ずかしくなってしまった
どうして私が照れるんだって話になるけど、
目が合うのが、少し嫌だった



「牧山さんやばいって何してんの」

「いや、自分やんやってるの」



他の女の子とはすごく、楽しそうで
少し悔しかった、…この気持ちっておかしいのかな

でも少しずつ、日が経つにつれて
また同じように話せるようになってきた

何となく、気まずい感じは抜け出せないけど



「なにこれ可愛いな」



私のキャラクターもののペンケースを手にとって
遊ぶような可愛い一面もある

そして私は何故か、彼が自分のものに触れたことを嬉しく思って



「なあ、河西さん」

『…ん？』

「もし、俺がプロ入ったらチーム関係なく俺のこと応援してくれる？」

『…うん、応援する』



そう約束したのがもう何年も前の話

このときの私は、絶対に認めなかった
金子くんに対して抱いている気持ちが、恋だってことを

でも今は違う、

高校を卒業した後、私たちはそれぞれ違う大学に進学

4年間大学という場所で学び、
就職活動をして内定を頂き

…今日はいよいよ、ドラフト会議だ
金子くんはどうやらプロ志望届を提出したらしい
今日、金子くんの夢が叶うかもしれない



『…え、うそ』



民放では第一指名しか放送してくれない
だから、速報で追ってた

金子くんの名前を見つけた！
そう思って球団を見ると、嘘みたいだ

金子くんが指名されたのは私がずっと応援してきたライオンズだった



『…すごいや、金子くん』



金子くんはあの日言った言葉をもう覚えてないかもしれない
だけど私は、気づかれなくてもずっと、応援する
約束したから



金子侑司河西さん、俺西武金子侑司あの日の約束、ちゃんと守ってな?俺西武なんやから絶対応援するんやで



彼があの日のことを覚えてるなんて、思わなかった
あぁ、あのときの気持ちが蘇ってくる
もう認めざるを得ないみたいだ




( 約束は何のためにあると思う？ )

( 守るためやで )

C6 安部友裕＊→←L3 浅村栄斗

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す