むかしの記憶。2 ページ2
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「……俺は、羊のことが好きやで。
「っ、……ぅ"ん…、っ……うんっ、…」
何を言えば羊の助けになるのか分からない。今の羊に何を言ってしまえば羊が壊れてしまうのかが分からない、当時はそんな不安な気持ちが胸中を渦巻いて中々晴れなかった。慎重に、慎重に言葉を選んでゆっくりと言い聞かせるように伝えた。
「羊が辛い時、俺が1番傍にいてあげる。羊が助けてって言った時に、1番に駆け付けたる。もし羊の見た目や性格が変わっても、必ずそれだけは守る」
「…ひくっ、……あり、がとぉ、…A……、」
「よしよし、存分に泣いてええよ」
涙腺が崩壊したように羊の大きな瞳から涙がボロボロと零れ落ちていく。まだ天まで昇りきっていない太陽の明かりが、そんな大粒の宝石のような涙を照らしていた。
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「……そんな事が」
「…うん。でも、Aが僕のこと好いてくれとるんやったら……それでええかなって」
「ふは、なんやそれ。俺が羊のこと嫌いになる訳ないやろ」
保険医の先生にお礼を言って保健室を出てから羊に話を聞いた。事情は伏せるが、まぁ両親についての事であった。両親には愛されていると思っていた手前、あんな対応をされてしまったのがショックだったらしかった。
話を聞いて少しでも羊が楽になれば、と思ったが表情は暗いまま。何か話を繋げなければ、と必死に頭を回転させていた。
「あ、羊ってゲーム好きだっけ?」
「?うん」
「それや。……設定、ゲーム設定。好きな物と関連付けたら少しは楽になるかもしれん」
「……僕が楽になれる様にってこと?ずっと黙っとったのってそれ考えてたから?…Aは優しいわぁ…」
「羊の為なら当たり前よ。気分転換でもど?」
羊の言葉に笑って返せば、元々大きな目をパチクリとさせてその場に立ち止まる。少し考えたようにしてから小さくため息をついて羊も俺と同じように笑った。
「……悪いお子様やなぁ、しゃーない、付き合ったるか」
それは、俺が羊に出会ってから1番輝いてる笑顔だった。
「んは、そりゃどーも。ほんなら行こか!」
その日は、俺と羊2人で初めて学校をサボったんだっけ。
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