憧れたんだもん。 ページ9
.
もしもあの時、人の波に抗わなかったら。
もしもあの時、もっと仮想敵を探して走り回っていたら。
もしも。もしも。
「チッ、ンな辛気臭ェ顔してんじゃねぇぞカス」
「なッ、カスって！そこまで言わなくても……」
出久くんと別れた帰り道、私よりも数cm背の高いお兄ちゃんに出来た小さな影を追いかけるようにして歩いていた。
別に落ち込んでいる訳じゃない。反省しているのだ。
今考えれば無謀な数々の行動を。
結果として良い方に転んだだけの、自分の馬鹿な行動を。
「タラレバは自分を苦しめるぞ」
きっと何の気なしに呟かれたそれは私の胸に深く刺さった。
「別に誰もお前が不合格なんて言っちゃいねぇだろ」
「そう、だけど…」
「今日、お前はお前のベストを尽くした。それで良いだろ。それ以上でも以下でもねェ」
そりゃそうだ。合格か不合格かなんて今は分からない。
プレゼント・マイクが言ってた「10分間」。その分数に大きな意味は無いんだろうけど、その短さで大きなポイント数をたたき出せる人は限られてくるはずなのだ。100P以上はおろか、50Pでさえも。
お兄ちゃんは「一々数えてねぇよ」って言ってた。
けどその後考える素振りをして「68……いや、75…？」なんて呟いてたから、それぐらい稼いだって事なんだろう。
1Pや2P、3Pをコツコツ積み重ねてそこまでの数にするには一体どれほどかかるのか。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「ジロジロ見んな」
「私ね、小さい頃からあるヒーローに憧れてるんだぁ」
「は？聞いてねェよ」
ケッと口を三角にして唾を吐くお兄ちゃんの横に並ぶ。
「でもね、その人はヒーローじゃないの」
「あ？」
「口は悪いし、素行は最悪だし、性格も最悪だし、っていうか横暴だし！」
「テメェホントにソイツのこと好きなんか」
私の口からスラスラと出てくる、彼の悪口。
疑ってます、とビシビシ感じるお兄ちゃんからの視線。
この話をする度に私は今までも、これからもそんな反応をされるだろう。
けど、胸を張って言ってやる。
「好きよ」
言葉に表せないくらい、目の前の男が好きなのだ。
明確な理由なんて知らない。覚えているわけも無い。
それでもひたすらに、彼に焦がれるのだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 106人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
