33話 期待 子規Side ページ35
「………下松さん、動きました」
僕はいった。
下松さんは僕の電算筐体を覗き込むと笑った。「おう、じゃあ行くか」
此処はとある路地裏。
僕は電網潜士として鉄仮面に所属している。
Aちゃんの動きを監視して早三日。
今日、やっと動きが見えた。ポートマフィア本部へ突入。
僕は電算筐体を閉じて立ち上がる。
「行きましょう」
下松さんの部下何人かを従えて、僕達は歩く。
大人数だが、町に出れば散らばって歩くので町に馴染んで解らなくなる。こういう処が、鉄仮面の凄い処だと、町に出る度に思う。
「Aは今何処に」
「ポートマフィア本部から百メートル先の路地裏で止まっています」
すると下松さんは後から来い、とだけ言い残し走って行って仕舞った。
取り残された僕達は言われた通りに後から行く。
僕はこれから、Aちゃんに会うんだ。鉄仮面として。
正直、気まずいを通り越して怖い。
どんな反応をされるのか、どんな目で見られるのか。特広の調査員として長期間接してきた相手だからこそ、怖い。
蔑まれるだろうか、怖がられるだろうか、それとも……。
何時もと同じように、笑い掛けて呉れるのだろうか。
そんな期待が過ぎった。
目的地に着くと、既に下松さんとAちゃんが睨み合っていた。
Aちゃんはこちらに気が付く。
下松さんの乾いた笑い声が響いた。
「………ごめん」
ふと、出た言葉だった。無意識に、出た言葉だった。
Aちゃんの目が見開かれる。
違う、僕が言いたいのはこんな言葉じゃない。
こんな軽い一言で、済む様な、済んで仕舞う様な。そんな軽い事はしてない。
もっと重い事、重大な事をして仕舞った。
Aちゃんを裏切り、特広を裏切り、武装探偵社を裏切り、皆を欺き。
そりゃ、皆と笑い合う度に何度も“助けて貰おうか”と考えた。この人達ならなんとかして呉れる、打ち明けて仕舞おう。
だけど、出来なかった
後悔先に立たず。僕は目をつぶる。
「何言ってんの……」Aちゃんの声が響いた。
そりゃあこうなるよな。期待した僕が間違ってた。
あの時、打ち明ければ良かったな。僕は思う。
走った、戦った、笑った。
紡いだ全ての記憶がフラッシュバックする。
もう、一生戻れない。
僕はそう、悟った。
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作者名:さくら志摩 | 作成日時:2018年8月9日 18時