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壁にいくつか並ぶ扉を無視して廊下を進み、広津さんは一番突き当たりにある扉を開いた。ぽっかりと四角く開いたそこには更に地下へと続く階段があり、先は闇に溶け込んでいる。
古めかしい石造りの壁は黒く薄汚れ、触れなくとも肌で感じるひんやりとした冷たさは、この場所が死を内包していることの象徴のようだ。
――そう。此処から先は地下収監所だ。
敵組織の人間を捕えて拷問をする場所でもあり、裏切り者を処刑する場所でもあり、危険な異能者を隔離する場所でもある。
(誰も居なくなった戦場に似てる……此処は)
風も何も無い筈なのに冷気が足下から這い上ってくるような感覚は、まさしくそれだった。生気のない静けさ。死を思わせる薄ら寒さ。
少しずつ体温を奪っていくような感覚は、生き物の命を闇が吸い取っていくようでもあって、或いは墓場もこんな空気なのかも知れない。
(一体どれくらいの人が、この冷たさから逃れられたんだろう)
そんなことを考えていると、広津さんが私を一瞥して薄闇へと足を踏み入れた。カツンカツンと石壁に反響する虚ろな音に背を押されるように、私も黙ってそれに続く。
そこそこに長い階段を下りきった地下の廊下は、ぼんやりとした橙色の明かりだけが唯一の光源で、あとはそこかしこに闇が潜んでいた。
まるでこちらをじっと見られているような感覚は随分久しいもので、そういえばこんな感じだったと思いながら歩いて行ったその先。
そこには、随分と既視感のある鉄扉が冷たく佇んでいた。
「……」
真逆とその扉を注視していると、広津さんが重い音を立てながらそれを押し開く。その先にあるのは天井から鎖と手錠が二つ吊り下げられた、少しかび臭い十畳程の広さの牢屋だった。
(……随分と、良い趣味をしているというか。私に対する皮肉か何かだろうか、これは)
既視感があるのも当然だった。此処は、私がマフィアで
無言のまま、視線で中へ入るよう促す広津さん達に従い、私は牢へ足を踏み入れた。大人しく壁に背を向ける形でつり下がっている手錠の間に立つと、立原さんと銀さんが即座に私の両手首に手枷を嵌める。
久々に感じる手首への圧迫感と体温を奪う冷たさは、ありがたくないことに随分しっくりと馴染んだ。たった四年離れていた程度では、早々感覚は消えないものらしい。
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霜夜華(プロフ) - ミオさん» ありがとうございます!大好きと言って頂けて本当に嬉しいですヽ(*´∀`)ノ頑張って更新しますね! (2020年3月12日 7時) (レス) id: 647614d598 (このIDを非表示/違反報告)
ミオ(プロフ) - このシリーズ、本当に大好きです。続編も楽しみに待ってますね! (2020年3月12日 7時) (レス) id: 181d62af7c (このIDを非表示/違反報告)
霜夜華(プロフ) - (^ー^)さん» 誤字ですね!すみません、修正します!ご指摘ありがとうございますー( ´ ▽ ` ) (2019年12月12日 1時) (レス) id: fee3f25fa7 (このIDを非表示/違反報告)
(^ー^)(プロフ) - 広津さんが弘津さんになってます。 (2019年12月11日 23時) (レス) id: db654e8536 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:霜夜華 | 作成日時:2019年11月28日 1時