命を懸けられるものが ページ49
「クロムもさ、私達が来る前はルリさんの不治の病をどうにかしようと必死だったってことでしょ?
だからその……みんな献身的だなっていうか」
途中から、自分が何を言いたいのかがよくわからなくなってきた。
「つまり……その、好きなものに、そんなふうに命を懸けられるのが、すごいなとおもいました」
あまりの自信のなさに、声が尻すぼみに小さくなった。
「浅い!そんなことでマグマを倒せると思うか!」
「少し休憩しようよー!!」
「ダメだ!あと3セットこなしてからだ!」
特訓の様子の辛さが、声を通じて伝わってくる。あの人達も、御前試合で痛め付けられるって分かっててやってるんだよね。
私にはそんな事、きっとできな……
「すごいなとおもいました、って言ってっけどな、テメーも実は、好きなことに命懸けてんだろ?」
私の思考を遮り、部長が言い放った。
「……私が?」
はたと部長の整った顔を見つめる。すぐに目を伏せた。
「私はそうは思わないけど」
私は自分の為なら他人が死んでも生き延びるタチだ。天秤の上では、命という重さに勝るものはないのだから。
ある意味臆病で卑怯。
人に好かれる性質ではない。
私はずっとそう思っている。
突然、下を向く私の頭にポンと何かが乗っかった。
「!」
それは部長から伸びる手だった。思ったよりかっちりしている手は、そのまま動かない。
「テメーが例え親に何言われようが、目が見えなくなろうが、石になろうが」
部長は続ける。
「テメーが植物を忘れた事は、ねえだろ」
何かが、私の胸の内にのしかかったような気がした。
それは、私が次に言う言葉が、部長の言葉にそぐわないからだ。
「でも私は、植物の為なら死ねるなんて思わないよ。皆とは違う」
「一緒だろ」
「違うよ」
さっきまで上げていた口角が、次第に落ちていった。
私は、そんな格好いいことはできないんだ。
それを見たのか、部長の手が、私の頭を優しく撫で始めた。
「!」
唐突に、父を思い出した。
私の頭を撫でてくれたのは、私の父さんだけだった。
撫でられる感触は、父さんと、まったく同じで。
━━━なれるさ。立派な、博士にな……
私の何かを揺るがせた。
「……………。
そうだね。……いつかはできる、かな」
私は笑っていたのだろうか。部長が私の顔を見て、ふっと笑った。
できるだろうか。
命を、懸けられるものが。
部長の瞳を見ると、どこか顔がじんわりと温かくなるのは、気のせいだろうか。
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くりぼつち長庚(プロフ) - Kさん:スタンリーはいいですよ〜はやくアニメ化することを願う!声優楽しみ! 神月ティアナさん:分かります!龍水もイケメンですよねぇ!ホワイマンの絡み、って、中々面白いの選びますね笑 (12月23日 20時) (レス) id: 02c9f82314 (このIDを非表示/違反報告)
神月ティアナ(プロフ) - 初コメ失礼します!とてもわかります!絡みが気になるキャラだと毎回上位にいるのが龍水、フランソワ、宝島組、アメリカ組、SAI、ホワイマンなんですよね (12月23日 15時) (レス) @page50 id: 7ac5013380 (このIDを非表示/違反報告)
Kさん - マジですか?!私はアニメででしか知らないので....スタンリーやゼノをGoogleで知ってる程度で....彼らの良さを早く知りたいです!!ちなみに私は千空推しです! (12月23日 15時) (レス) @page50 id: 3281584211 (このIDを非表示/違反報告)
Kさん - 初コメント失礼します!最近読み始めたのですが素敵ですねこの作品!胸をキュンキュンさせながら見させていただいています!素敵な作品ありがとうございます! (12月23日 11時) (レス) id: 3281584211 (このIDを非表示/違反報告)
長庚(プロフ) - お気に入り100人いきました!皆様ありがとうございます! (11月22日 22時) (レス) id: 02c9f82314 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長庚 | 作成日時:2023年10月14日 19時