母さん ページ2
━━私、仕事でしばらくいないから。
母に石化前最後に会ったのは、そう告げられた時だった。
一軒家の広くないダイニングで、目も見えなかった私が何故か食器を洗っていたときだ。
「仕事?どこに行くの」
「……仙台だったかしら、確か」母のおぼろげな答え方に苛立ちを覚えながらも、穏やかさを必死に纏って訊く。
「…母さんだけ?」
「いいえ、お父さんも一緒よ」
「そうなんだ」
母は淡々とコメントを付けるだけの私に、ため息をついた。
「…変なこと、するんじゃないわよ。私達がいない間、ちゃんと家事もやっておきなさい」
私はゆっくり、光を感じることの出来ない目を開いた。
光はやはり無い。
しかし、母の威圧だけははっきりと分かる。
「分かってる」
唇を噛み締めながら言う。
皿を洗う手は止めなかったので、水の流れる音が、大きく響いていた。
******* *
ぐるぐると、最後の記憶だけが脳内で再生され続けた。
目の前の石像は忘れる訳もない私の母、氷室
しかしおかしい。
ここは箱根だ。
母さんは、仙台に行くと言っていたのに。
何で、箱根に……。
(…箱根…伊豆……。っていったら……。
……ああ、もしかして)
私はざっと推測をする。
ここは以前、言わずと知れた温泉観光地だったのだ。
そう考えれば、何をしにここへ来たのかなんて大体分かる。
あの女の事だから、仕事と嘘をついてだって、私を置いて遊びに行きたかったんだろうな。
「……よくない事はしないけど」私は母さんの石像に語りかける。もちろん、何も返ってこない。見れば見るほど恨めしい気持ちが大きくなる。
「この石像、壊したらいけないかな」
「A?」
後ろから名前を呼ばれた。振り返ると、コハクが怪訝な表情をして立っていた。
「その石像、知っているのか?」
「うん。母さんだよ」慌てて笑顔を繕う。コハクが来るのは想定外だ。
私がにこりとするのとは対照的に、コハクは大きな目をぱっちりと開く。
「では、やはり君達は石像だったのか。不思議だな」
そういえば、コハクには私達がどこから来たのかは話していなかった。多分、普通に村から追放された罪人と思っているのだろう。
「そうだね。これから皆、全人類復活させるからね」
「…そうだな。
あの……ところで」
急に何やら暖かい目で私を見るコハク。たっぷり溜めてから問われる。
「昨日はどこで寝たのだ?」
「え?」
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くりぼつち長庚(プロフ) - Kさん:スタンリーはいいですよ〜はやくアニメ化することを願う!声優楽しみ! 神月ティアナさん:分かります!龍水もイケメンですよねぇ!ホワイマンの絡み、って、中々面白いの選びますね笑 (12月23日 20時) (レス) id: 02c9f82314 (このIDを非表示/違反報告)
神月ティアナ(プロフ) - 初コメ失礼します!とてもわかります!絡みが気になるキャラだと毎回上位にいるのが龍水、フランソワ、宝島組、アメリカ組、SAI、ホワイマンなんですよね (12月23日 15時) (レス) @page50 id: 7ac5013380 (このIDを非表示/違反報告)
Kさん - マジですか?!私はアニメででしか知らないので....スタンリーやゼノをGoogleで知ってる程度で....彼らの良さを早く知りたいです!!ちなみに私は千空推しです! (12月23日 15時) (レス) @page50 id: 3281584211 (このIDを非表示/違反報告)
Kさん - 初コメント失礼します!最近読み始めたのですが素敵ですねこの作品!胸をキュンキュンさせながら見させていただいています!素敵な作品ありがとうございます! (12月23日 11時) (レス) id: 3281584211 (このIDを非表示/違反報告)
長庚(プロフ) - お気に入り100人いきました!皆様ありがとうございます! (11月22日 22時) (レス) id: 02c9f82314 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長庚 | 作成日時:2023年10月14日 19時