- ページ6
.
のびのびと言う彼に頭が上がらない。
拓也くんが看病してくれていなかったら、私はもしかしたらこの家でのたれ死んでいたかもしれないから。ただ、忙しい彼の時間を、私の体調管理が問題で奪ってしまったことが物凄く申し訳ないのだ。
項垂れる私に、「そんなつまんないことまで気にできるってことは、結構良くなってんじゃん！」と前向きに声をかける彼の優しさというか、世話焼きなところは良くも悪くも、私を救う。熱のせいで若干緩んだ涙腺のおかげで目を赤くすると、彼は私を笑いながら抱きしめて、「仕方ないなぁ」とあやした。
ひと回り大きな彼の体は、私をいとも容易く包み込む。唸りながら、彼の背中に手を回してシャツを握った。悔しい、安心する。
彼お手製のお粥を食べきるとすぐにベットに押し込まれた。病人は寝るのが仕事なんだとか。
寝れないとごねると、拓也くんは隣でずっと世間話をしてくれた。
最近は犬を飼う人より猫を飼う人の方が多いんだとか。あとは、宝くじで一等が当たる確率より、自分に隕石が当たる可能性が高いだとかなんだとか、そんなくだらない話だ。
楽しいと時間は早くすぎてしまう。未だ寝れない私に、彼は申し訳なさそうに「もう行かないと」と立ち上がった。
「寝なくてもいいからあったかくして目瞑ってるんだよ」
「うん。気をつけてね」
「帰り寄れそうなら寄るから」
名残惜しそうな彼を安心させるため、私は口角を上げてみせる。本当は行かないでと言いたい。言いたいけれど、でも言っても仕方がないとわかっているから。世話焼きな拓也くんは、私のそばにいたいと思ってくれているはずで、そんなことを言ってしまえばお互いの首が閉まるだけだから。
思わず伸ばしそうになる手を反対の手で捕まえて、固くベットの中で結んだ。そして、彼に「いってらっしゃい」と呟く。
頷いた彼は背を向けて数歩進んで振り返り、今度は私の方にやってきて、おでこに優しくキスを落としていった。「いってきます」という優しい声と共に、私を数秒眺めて。
真っ赤な顔が見られないように、布団に鼻先まで潜る。もう見えない彼の背中に向かって、「いってらっしゃい！！」と言葉を投げた。
キザだ。最高にずるい。けしからん。
ベットの中で暴れ回り、一人悶えた。こんなの寝れるわけないじゃないか。顔が赤いのは熱のせいじゃない。紛れもなく、キザな拓也くんのせいだと、体を丸めて転がり回った。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 383人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
マニ。(プロフ) - まほろさん» ✉️。続編を見ました！面白いです！これからも頑張ってください、ボードの返事とかもお待ちしています💝 (12月30日 18時) (
レス) id: 4c65165166 (このIDを非表示/違反報告)
まほろ(プロフ) - ささくさん» 素敵な感想を頂けてとても嬉しいばかりです。ささく様にいつかふと、思い出していただけるような作品になっていればと思います。新作も執筆途中ですので、ぜひ楽しみにお待ちいただければと思います。長らくお付き合いいただき、本当にありがとうございました！ (12月28日 18時) (レス) id: 0871b431d8 (このIDを非表示/違反報告)
まほろ(プロフ) - ささくさん» この度はご愛読いただきありがとうございました☺️ ありきたりな設定でありながらも家族をテーマにしたこの作品では、私としても考えさせられることがとても多く、時に皆様をお待たせしてしまうことがありました。無事、完結することができ安堵しております。 (12月28日 18時) (レス) id: 0871b431d8 (このIDを非表示/違反報告)
ささく - これからも陰ながら応援しております。新作等の予定がございましたらお知らせ願いたいです。まほろ様の書く小説が大好きな一読者より。 (12月23日 1時) (レス) id: 6670d41b0b (このIDを非表示/違反報告)
ささく - 本当に本当に、言葉にするのが難しいくらいまほろ様の文章に惹かれてしまいました。別作を拝見させていただき、あまりの文章力に魅了されこちらの作品も読ませていただいたのですが、家族の形や愛情の形の本質が詰まっている素敵なお話で胸を打たれました。 (12月23日 1時) (レス) @page41 id: 6670d41b0b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：まほろ | 作成日時：2022年9月20日 8時
