鹿の角を蜂が刺す ページ13
.
「ほんっとにあなたどこにでも現れるんですね」
ドア越しに投げかけると、この空間では聞こえてはならないはずの女性の声で「呼んだのそっちでしょ」と返された。
時は令和、大平和時代。
トイレに入って一息ついた俺は、絶句した。紙がない。
考える間もなく携帯を操作し耳にあて、「紙がねぇ」と言うと電話越しにでっかいため息。
「だから？ 来てくださいでしょ、お願いしますでしょ！ ほら！ 復唱！」
「……きてください」
途端に頭上から降ってくるトイレットペーパー。どうやらドア越しにいる彼女は俺の入る個室をズバリ当て、思いっきり投げ込んだらしい。
本当こいつ、どこにでも現れるな。
ドアを開けトイレから出ると、壁にもたれかかっている女が目に入る。
待ってたのかよと思いもかけない行動に驚いていると、右手がスッと差し出される。
「五円」
「……ゲンキンなやつだな」
「はぁ？ 原則前払い！ 梅原さんが得意先なので仕方がなく後払いにしてあげたんだから、まず感謝してください」
隣でギャースカ言ってるのを放っておいて財布を広げるも、五円は無し。ため息をつき腕時計をチラッと見てから「メシ行くぞ」と言って歩き出す。
「全くこれだから最近の若者は」
「あんたも見た目は変わんないでしょう」
「残念、中身は時空を飛び越える空前絶後の大大大大！大老人でしたぁ」
「んな自慢げに言われても」
なんだかんだ言いつつ俺の後ろをひょこひょことついてくる女に何を食べたいかと聞くと、少し唸った後にクソデケェ声で「ィィイタリアン！！！！！」と叫ばれた。
周りを見渡すも誰も何も反応せず。それはこの瞬間が変わらぬ日常で、誰もが微睡む昼時だということの何よりの証拠だ。
こんな真っ昼間にあんな声量で女がイタリアンとぶっ放せば、誰か一人くらいは興味本位にこちらを見ているものだ。なのに一抹の視線も感じない。
女を見下ろし不思議だなぁと首を傾げ、また前を向いた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 85人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
名無し - 普通の夢小説とは違う何とも言えない夢主の存在がたまらないです。まさかファンタジー（？）系でこんなにハマるとは思ってませんでしたほんとに。めちゃめちゃ面白いのでいつも更新楽しみに待ってます。これからも頑張ってください (4月13日 10時) (
レス) @page6 id: 5d4eebdee6 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 興味本位で見たらどっぷりハマりました。夢主ののらりくらりかわしていく感じがめちゃ好きです。小説の雰囲気も好きです。更新楽しみに待ちます (4月8日 1時) (レス) @page19 id: 5d4eebdee6 (このIDを非表示/違反報告)
まほろ(プロフ) - たれみみさん» とってもとっても嬉しいコメントありがとうございます〜🥲これからも更新続けてまいりますのでぜひご愛読くださいませ(ˊo̴̶̷̤ ̫ o̴̶̷̤ˋ)ᐢ コメントもお待ちしております！ (2月19日 20時) (レス) id: 0871b431d8 (このIDを非表示/違反報告)
たれみみ(プロフ) - まほろさんの新作とっっっっっっても楽しみにしておりました。入りからずっと最高です…ありがとうございます…この作品の更新楽しみにこれから生きていこうと思いました。ありがとうございます。 (2月16日 18時) (レス) @page1 id: 2e7d03848e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：まほろ | 作成日時：2024年2月15日 18時
