神のいない世界で (ページ8)

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もう千年前にはなるだろうか。まだ人間としての名を持たなかったアーサーは、初めて死を目の当たりにすることとなってしまった。

「もう、レニーは動いてくれないの？まだ小さいのになんで……」

人間は大人になったら死んでしまうと思っていた。ちょうど自分の外見と変わらないくらいの年だったレニーとは、長い間友達でいられると思い込んでいたのだ。しかし、レニーは木から落ちて頭をぶつけてしまったらしい。今ならそれでレニーが死んでしまったと言われても、子供なのに不幸だったと終わりにできるが、まだ心も子供だった千年前には到底受け入れられることではなかった。

「嫌だ、レニーが死んじゃうなんて嫌だ、まだ小さかったのになんで！俺は認めたくない！」

そんな風に駄々をこねて泣きじゃくっていると、聞きなれた声が、アーサーをからかってくる。

「あー、お前また泣いてるー、泣き虫じゃん」

「うるせえ！泣いてねえよ」

「嫌だ！俺は認めたくない、とか言ってたじゃん。聞いてましたー」

フランシスはそう言ってアーサーを思い切り笑う。アーサーは無理やり涙を拭い、泣いていないと言い張る。すると、フランシスは真面目な顔になって、アーサーの肩に手を当てて、諭すように話し出す。

「気持ちは分かるけど、人間はいつか必ず死んでしまうんだ。それに俺らと同じくらいの歳に見えるやつらでも死ぬことはある。皆が皆大人になって死ぬわけじゃないんだ。確かにお前があの人間を気に入っていたことは分かってる。でも、俺たちは人間とは違うんだ。そこまで入れ込むのはやめておけ」

アーサーを軽く独り占めしたかった以上にその言葉はフランシスにとって意味のあることだった。こうしてアーサーに偉そうな口を叩ける。でも、自分でもそう割り切れないところはあった。だからこそ、アーサーにだけでなくの心にも刻んでおきたくて、そう話したのだ。

そして、フランシスはアーサーにとって、国という生き物を教えてくれる指針として存在するようになった。