神のいない世界で (ページ7)

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「アーサー、久しぶり」

半年後、疲れ切った顔をしてアーサーの元を訪れたのは、半年前と変わらないフランシス・ボヌフォワだった。パリの匂いをまとっているその姿は、田舎町を訪ねるには洒落すぎているものだったが、違和感を覚えないのは、その疲れた顔にあるだろう。

「半年ぶりだな、ブラック企業勤めの帰りか？」

フランシスは何も答えないままにアーサーの木造の家へと入っていくと、ダイニングの椅子に力なく座り込む。アーサーはフランシスに待っているよう伝えると、紅茶を淹れて、フランシスの前へと出してやる。フランシスはひとことありがとうとアーサーに伝えると、彼が向かい側に座ったのを確認して、話しはじめる。

「いつかはきっと折り合いをつけないといけないことなのは分かっている。でも、沸き立つ怒りを抑えていることが俺にはできなかった。眼をそらし続けることもだ」

湾曲したフランシスの言い方から、アーサーは彼が何を言いたいのか理解してしまった。だがアーサーもまた、そのことを認めたくなかった。

「何の話だよ、いきなりポエムじみたこと口ずさんで」

フランシスは力なく口角を上げる。

「こんなに簡単に死がなくなるなら、神様はどうしてこんなにも長い時間をかけて俺たちと人間に差を作り続けていたんだろうね」

アーサーの、紅茶を飲もうとしていた手が止まる。

「知るかよ、そんなこと」

そう言う声は震えている。そんな様子のアーサーにフランシスは乾いた笑いを漏らす。

「本当に怒りを感じるよ、救いたかったもの、なのに救えなかったもの。お前もあるだろ？でも助けられないから仕方ないって諦めてきた。なのに今更人類から死を奪ったって、今まで俺たちが奪われてきたものは戻ってこないんだ。本当に、それがやるせなくて、悔しいんだ」

フランシスはぼろぼろと涙を流す。悔しさがこらえきれないというのはアーサーにもすぐに分かった。それにフランシスにとって救えなかった存在や殺すしかなかった存在がどれほど大きく心の中に残っているのかも。だが、アーサーにとっては、涙を流し、弱さを見せてくるフランシス・ボヌフォワという姿は、異質にしか見えなかった。