神のいない世界で (ページ4)

今日:4 hit、昨日:2 hit、合計:802 hit

3 ページ4

「味付けが足りないな、お前料理下手になったんじゃねえか？」

「はぁ！？ろくに飯食ってなさそうなお前のために薄味で作ってんの！」

思わずフランシスは立ち上がってしまう、しかし、軽口をたたく元気を取り戻してくれたのかと少しうれしくもある。

「勝手に人を病人扱いすんじゃねえよ、勝手に家に上がり込んでキッチン使いやがって」

「そんなに言うなら食わなくていいよーだ！」

そう言って皿を取り上げようとするフランシスの手をアーサーはグッと掴む。

「あるだけ全部よこせ。俺のためにわざわざお前に苦労させてやったんだ。一滴残らず食い尽くしてやる」

アーサーは具材と共にスープを一気に掻き込む。よっぽど腹を空かせていたのだろう、フランシスはそう改めて感じた。

「で、どうするこの世界」

フランシスが使い終えた鍋を洗っていると、アーサーがそう話しかけてくる。

「別に。今まで通り仕事をして、好きなことをして、そうやって生きてくだけだよ」

水を出して、洗剤を洗い落としていく。その水が流れていくように、時間も流れていく。それによって人は生き死を繰り返し、街並みも変わっていく。そんな当たり前がこれからは当たり前ではなくなる。もしかしたら自分たちが死を迎えられる唯一の生き物になってしまったのではないかという恐怖に襲われてしまうほどに。きっとどんな国も漠然とした恐怖の中に生きているだろう。きっとこれは国民の恐怖が反映されてしまっているのだ、それが自分の感情と結びついているだけだ。フランシスはそう言い聞かせる。

耐えろ、いづれ全てを国民が受け入れて、全てが楽になる。

「アーサー、こんなに簡単に人から死を奪い去れるんだったら、どうしてもっと早くやってくれなかったの……なんて、思ってる？」

洗い終わった鍋を乾燥機へと移動させると、フランシスはそう尋ねる。平らなシノワズリのスープ皿やスプーンも入れると、スイッチを押す。しかしアーサーからは何も答えない。でもどんな顔をしているのかはフランシスには分かってしまう。自分と同じように、曇りきった浮かない顔をしている。