神のいない世界で (ページ3)

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フランシスはアーサーの向かい側に座ると、スーパーのビニル袋に入ったたくさんの食材をテーブルに置く。何か食べれば気分も落ち着いてくれるのではないか、という考えからだった。

「お前、仕事は良いのかよ」

突っ伏したまま、疲れ果てた声でアーサーは尋ねる。

「問題が一区切りつくまで俺はお休み。帰ったら国民たちにまた笑顔を振りまかないといけないからね。消耗してる暇なんてないのさ」

フランシスはそう伝えて立ち上がると、キッチンの方へ歩いていく。本来ならアーサーはひどく嫌がるはずなのに、今日は何も言ってこない。何も言えないくらいに疲れてしまっているのだ。フランシスはそんなアーサーを横目に、袋から野菜を取り出し、キッチンの引き出しを探った。

皆が皆死ななくなる世界は幸せなのだろうか。それに、こんなに簡単に実現できる世界だったならば今までの出会いと別れは何だったのだろうか。アーサーの体を無気力から怒りが支配していく。そのまま、キッチンに立つフランシスを見ていると、怒りを抑えきれなくなった。

「なあ、お前は何も感じてねえのかよ」

何に？とフランシスは鍋に野菜を入れながら聞き返す。本当なら分かっているくせに、無関心なふりを決めているのだ。

「この世界にだよ、こんな簡単に死なないってのが完成できるんだったら、どうして最初からそうできなかったんだよ。お前だって」

アーサーがそう捲し立てるのをフランシスは遮り

「今は料理に集中したいんだ、失敗すると大変な工程だからね。静かにしてくれる？」

その言葉は穏やかさを含んでいながらも、フランシスの激しい怒りも表していた。

アーサーは何も答えず、ただただ沈黙が流れ続ける。鍋で食材を煮るぐつぐつという音だけが、やけに耳に残っていた。

「できたよ、少しは食べな」

フランシスはアーサーの前にスープを置く。ろくに食事もとっていないんじゃないかと考えて、消化しやすいミネストローネを用意してみる。食べなくても冷蔵庫に入れておけば数日は持つんじゃないかと思ったからだ。アーサーは生気のない顔でスプーンを持つと、ミネストローネを口に入れる。

「どう？美味しい？」

アーサーの向かい側に座るフランシスは、アーサーが少しずつスープを飲んでいる様子を眺める。胃に負担をかけないように薄味で水分を多くして作った。野菜の甘みが引き立っている筈だ。アーサーはフランシスの視線に気づくと優しく微笑む。