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普段通りの業務を行っていたアーサー・カークランドを驚かせたのは、たった1通のメールだった。死がなくなってしまったらしい、普通なら冗談だろと無視してしまえそうな内容のメールに動揺を隠せなくなったのは、彼の秘書が血相を変えて駆け込んできたからだろう。
死がなくなる。ちゃんと理解できている気はしないが、そうなのか、と人ごとにしか思えなかった。元々人間よりも死ににくい自分たちには関係のない話だと思い込んでいたのだ。
「アーサー、元気にしてる？」
木の匂いの感じる田舎の薔薇園でも作れそうな敷地のある庭、古びた家、そこに香ってくるパリの銘柄も知らぬ香水の匂い。ダイニングテーブルに突っ伏すアーサーが顔を上げると、そこには予想通り、フランシス・ボヌフォワがいた。規則正しくウェーブのかかった金髪に、紫に近い青い眼が印象的だ。いつぞやに会った古代エジプトの男とはまた異なった青をしていた。
「これが元気そうに見えるかよ……」
アーサーは再び突っ伏す。死という現象を全生物が失ってからずっとこのありさまなのだ。上司からは待機を命じられ、世界の混乱時に何もできずにただただ田舎に追いやられている。別にそれが不快なわけではない。もっと異なる、漠然とした恐怖が、彼の体を蝕んでいるのだ。
「まあまあ、気持ちは分かるけど、今すぐ何かを変えられるわけじゃないんだから、落ち着いてよ」
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作者名：Suen Tsukishima | 作成日時：2022年9月9日 2時
