何も話さないで_izw ページ6
二人の思い出はいつだって美しかった。
拓司とは学部が同じで、グループワークの打ち上げで意気投合した。
共通の趣味がサッカーということで、チケット取ってJリーグを見に行ったり、互いの家に泊まってプレミアリーグを明け方まで見たりしているうちに、いつの間にか付き合っていた。
クイズノックを立ち上げる時も、川上との相談の後真っ先に声をかけてくれた。
Aの文才がこの団体に不可欠だから、と。彼女だから、誘ってくれたわけじゃない。
自分の能力も拓司に求められていることが、何よりも嬉しかった。
そして誰よりも、公私に渡って拓司を支えられているのが、その時の私の生きがいだった。
多少忙しくても、心が通っていれば、何も怖くない。
仲間内で喧嘩したときも、新しい企画でも、実現が難しそうな案件でも、何でも挑戦できた。
壁の時計は、22時を5分回った。二人は今、オフィスにいる。
最初に入居したワンルームの事務所より大きい。あの頃に比べたら、ライターも社員も大勢増えた。
私は、沢山の思い出が詰まった、このカラフルな部屋に似合わない、白い封筒を拓司に差し出している。
「お前、どういうつもりなんだよ」
冷静さを失わずに、でも言葉の端々に怒りを滲ませて拓司は言う。
「辞めるなんて、何も聞いてない」
拓司の指摘は至極全うであった。
これは、付き合ってから初めて、自分だけで決めた決断だ。
誰にも、何も相談してない。
「もう疲れたの」
何に、とは敢えて言わない。
「…業務過多なら、河村と」
「そうじゃないことぐらい、東大王の伊沢さんならわかるでしょう？」
ある意味期待どおりの発言が返ってきたので、こちらも最大限の皮肉で応酬する。
「じゃあ、何なんだよ！」
今まで反抗してこなかった、私の口答えがよほど気に食わなかったのか、
拓司は勢いよく立ち上がり、声を張り上げ私を威圧する。
彼は何でも知っている。今も答えが分かっているのに、それを認めたくないから言わない。
この白い封筒を受け取れば、同僚として、恋人としての関係性の終了を意味することを。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 74人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
そのうち(プロフ) - 今回も最高でした…！ぐいぐい押せ押せして相手が断れないような「ご飯これからも行こう」という提案するのも溺愛されてるのも大好きです💕今までのお話もこれからのお話ももう大好きです💕これからも応援してます💕 (2022年3月30日 7時) (
レス) @page18 id: 7f613ac8c4 (このIDを非表示/違反報告)
ぼかみ(プロフ) - ありがとうございます！いつまでもおまちしております:) (2022年2月22日 0時) (レス) id: 66b1b1bb81 (このIDを非表示/違反報告)
アテ(プロフ) - ぼかみさん» >>ぼかみ様、温かいコメント頂きありがとうございます！最近また少し時間が取れそうなので、少しずつ執筆しますね:)気が向いたらまた覗きに来てください！ (2022年2月21日 23時) (レス) id: 01a98e675c (このIDを非表示/違反報告)
ぼかみ(プロフ) - 初コメ失礼します。最高でした...！特に窓の外のkoちゃんのお話が大好きで何度も読み返しています！お体に気をつけて、更新をお待ちしております。 (2022年2月8日 23時) (レス) @page4 id: 66b1b1bb81 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みそ | 作成日時：2021年10月24日 0時
