38 ページ38
.
「これでも俺、今忙しいんですけどねえ」
貼り付けたような笑みの下にある熱く煮えたぎった激しさを、知性で上手に包み込んでいるといった雰囲気が彼には漂っていた。殿下が呼び出すと瞬く間に現れたこの男――ホークス。宮廷マナーも軽薄になりそうな仕草で頭を下げた彼に、殿下は「大事な要件だ」と冷静な眼差しを向けた。
「要件ってのはさっきから俺に敵意剥き出しの彼のことです？」
チラと視線を寄越した彼の瞳にカツキさんが映り込む。カツキさんは彼が部屋に入ってからというもの、私を背中に隠し警戒を切らさなかった。掴みどころのなく気怠ささえ感じるホークスの目が細められる。一瞬その中に、真実を見透かすような、猛禽類を思わせる鋭さが灯ったように見えて、私は唾を飲み込んだ。
殿下が事の次第をつかえることなく話し終えると、ホークスはわざとらしく「なるほど」と神妙に顎に手を添えた。それすら造られたポーズに感じた。
「ホークス、お前の協力が必要だ。親父に打診してくれないか。竜族と人間の和平の場を設けてほしいと」
「んーそれもアリですけど……こうは考えませんでした？」
笑っていたはずの彼の瞳が光を閉ざして昏くなった。その瞬間、何が起こったのか脳が処理をするよりも速くカツキさんの体が水平に吹っ飛び、重い音を立てて壁に撥ね付けられた。どこから現れたのか、朱い羽が壁に突き刺さり彼の手足を拘束していた。
「得体の知れない竜族が王への危険分子になると判断し、俺が直々に手を下す……とはね」
しかし拘束も続かなかった。ショート様が左手をかざす。と同時に、カツキさんを壁に縫い付けていた羽に炎が宿った。燃え尽きて彼が舌打ちと共に床に膝をつくと、殿下は揺らぎのない表情で言った。
「いいや、考えなかった。お前は王への忠誠を誓ってる、だからこそだ。親父がまだ竜族への対応に手こずってる中、お前が勝手にバクゴーを処理しちまえば背信問題になる。俺の知ってるホークスは、そんな馬鹿なことをする奴じゃねえ。……これは友達の頼みなんだ。断るなんてしてくれんなよ」
ホークスは虚をつかれて瞠目すると、諦めたように笑って首元に手を当てた。仮面が剥落する一瞬を垣間見たように思った。
「そもそも、俺程度が王子様のお願いを断るなんてできないんで。それに、異種族が自由に空を飛べるかもしれない好機だ」
そして斜め上に視線を馳せると頷き、「やってみる価値はあるでしょ」と愉快げに眉を上げた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 266人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えとり(プロフ) - 瑞樹さん» 書き込みからお褒めの言葉までありがとうございます……！ゆったりとした更新ですが、応援していただけてとても嬉しいです^^ (2022年10月26日 20時) (
レス) id: 3ae1089047 (このIDを非表示/違反報告)
瑞樹(プロフ) - 文才があり過ぎて本当に尊敬します……。丁寧な描写がとても素晴らしいです！ 応援しています！ (2022年10月25日 19時) (レス) id: 943a21922c (このIDを非表示/違反報告)
えとり(プロフ) - ぴょんきちまるさん» 素敵な書き込みありがとうございます、その言葉に、私の心も嬉しさで痺れました…！続きもお楽しみください^^ (2022年10月15日 20時) (レス) @page22 id: 3ae1089047 (このIDを非表示/違反報告)
ぴょんきちまる - とても素敵な作品！読んでいて、凄く痺れました！わくわくしました。こんなにも次の話が楽しみで仕方ない作品に出会えて幸せです。 (2022年10月15日 11時) (レス) id: 94182d8a2a (このIDを非表示/違反報告)
えとり(プロフ) - enhy7さん» 書き込みとても嬉しいです…！体が浮いて飛び去ってしまいそうな、幻想的で素敵な曲のご紹介もありがとうございます。物語を引き続きお楽しみいただければと思います。 (2022年10月7日 19時) (レス) id: 3ae1089047 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：えとり | 作成日時：2022年9月12日 10時
