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教えてもらった手順に従って弓の手入れに集中していると、荒波から遠ざかることができるような気がして、私はそれが好きだった。愛着を持つほど手に馴染む。カツキさんに作ってもらったというだけでも気に入っていたし、狩りもだんだん勝手がわかってきた。
いきなり、図太く逞しく、というわけにはいかないけれど。こうして少しずつ吸収していけばいい。私は磨かれて艶を取り戻した弓を地面に置いた。
「様になってきてんな」
「カツキさん」
座る私を後ろから覗き込むように立つ彼の腰には、見たことのない剣が提がっていた。湾曲した形の長い刃渡り、豪奢な彫りの入った鞘。そんな目立つものを今までどこに隠していたのか。いや、隠すまでもない。彼ならその剣を透けて見えなくすることも、石ころに見せかけることだって容易いだろう。私は長物から視線を外して言った。
「ありがとうございます。このまま練習を続ければ、一人でも、もう狩りに行けるかも」
「あそ。なら大丈夫だな。俺しばらく帰らねぇから」
「え！？」
私は驚きを隠しもせずに声を上げた。何を唐突に。彼はやや眉をひそめながら、それでも口にはどこか軽妙な笑みを浮かべた。
「ンだよ。しばらくつっても、ただの遠狩りだ。一人でも平気なんだろうが」
「それとこれとは」
「ま、一人にはしねーけど」
「は」
「おい、出てこい」
入口に向かって彼が呼び出した先を注視していると、赤い塊のようなものが頭だけ出して様子を窺うようにひょっこりと現れた。私は咄嗟に立ち上がってカツキさんに寄り添い彼のマントを掴んでいた。私の目が狂っていなければ、そこにいるのは虎で間違いなかった。しかし驚いたことに、赤い毛並みの虎はこちらを襲う様子もなく、ただじっと澄んだ瞳を私に向けている。
説明を仰ぐようにカツキさんを見上げると、彼は「なに恥ずかしがっとんだキリシマァ……」と不満げに下唇を突き出した。キリシマ？
「俺がいない間アイツを置いとく。襲いやしねェから安心しろ、お前には従うよう言ってある」
「待って。話が急すぎて追いつけません、一体あの虎は」
と、虎がしなやかな動きで洞窟に入り、私の前に座って尻尾をくねらせた。炎を閉じ込めたような艶やかな赤い体毛に、胡桃のような目がふたつ、真っ直ぐに私を見上げている。「この子の名前は？」私は虎から目を離さず尋ねた。
「……クソ髪とでも呼んどけ」
この純朴な瞳をした虎の扱いが雑なのは気のせいなのだろうか。
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えとり(プロフ) - 瑞樹さん» 書き込みからお褒めの言葉までありがとうございます……！ゆったりとした更新ですが、応援していただけてとても嬉しいです^^ (2022年10月26日 20時) (
レス) id: 3ae1089047 (このIDを非表示/違反報告)
瑞樹(プロフ) - 文才があり過ぎて本当に尊敬します……。丁寧な描写がとても素晴らしいです！ 応援しています！ (2022年10月25日 19時) (レス) id: 943a21922c (このIDを非表示/違反報告)
えとり(プロフ) - ぴょんきちまるさん» 素敵な書き込みありがとうございます、その言葉に、私の心も嬉しさで痺れました…！続きもお楽しみください^^ (2022年10月15日 20時) (レス) @page22 id: 3ae1089047 (このIDを非表示/違反報告)
ぴょんきちまる - とても素敵な作品！読んでいて、凄く痺れました！わくわくしました。こんなにも次の話が楽しみで仕方ない作品に出会えて幸せです。 (2022年10月15日 11時) (レス) id: 94182d8a2a (このIDを非表示/違反報告)
えとり(プロフ) - enhy7さん» 書き込みとても嬉しいです…！体が浮いて飛び去ってしまいそうな、幻想的で素敵な曲のご紹介もありがとうございます。物語を引き続きお楽しみいただければと思います。 (2022年10月7日 19時) (レス) id: 3ae1089047 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：えとり | 作成日時：2022年9月12日 10時
