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竜の目を探しに来たのだと、カツキさんに話したことはない。
今となっては、カツキさんが不器用さの滲む態度でありながらも、自分に優しくしてくれて、大切に思い、大抵の望みを叶えてくれていることはわかっている。けれどまさにそのひたむきさが、話してはいけない、と私に戒告していた。
時折、不意に何か音がして、カツキさんが弾かれたように顔を上げ、洞窟の出口に飛んでいくことがある。じっと息を潜め、耳を澄まし、優れた嗅覚を研ぎ澄ませて。そんな時カツキさんの目は、崖の下を見渡しながら鋭利になっていく。
カツキさんがこの自然に生きる一部なのだということを知らしめられている気分になる。私はそのたび、自分とカツキさんの間にある世界の壁を見る。
次の満月には、帰ることになっているのに。
仮の契りなど、すぐ消え失せるものなのに。
せめて一緒にいるときくらいは、ことを穏便に運びたかった。カツキさんは私に言わないことはあっても、嘘をつくことはない。そのせいか、不思議と不信感は募らない、むしろ――。だから私を決して狩りに同行させないことも、あの赤髪の青年との関係も、私が知らなくていい、あるいは知らないほうがいいことなのだろう。そう自分に言い聞かせた。いつも森の外でしてきたように。
翌朝、私はまたもあの音を聞いた。飛び起きたそのとき、思わず目を見張るほど、美しい光景を目にした。
彼は弓を引いていた。
マントを羽織っていない肌は朝日を浴びて輝き、弦を引く腕には太い筋が浮かび上がっていた。ほんの揺らぎも許さない横顔から覗く視線、息を詰め、緊張の均衡が保たれた口元。弦が軋む。骨格のたくましい肩や喉元には無駄がなく、生まれた時からそうであったかのように自然に溶け込んでいる。凪いだ水面、風のない一瞬を捉えた美しさ、そう例えればいいのだろうか。
いつまでも見ていたい。張り詰めた弓と同化した、カツキさんの気負いのない眉と、彫りの深い鼻筋と、勾玉が飾る形の良い耳、その全てがまるで絵画のようで。そして何より、光を受けて透過する瞳が、苦しいほど慕情を募らせた。首にある痕がそれに呼応して、微かに痛む感覚があった。
――カツキさん。
痕に手を当て、その名をなぞった。彼の手が弦から離れる。弦がたわみ、矢は飛び、空気が揺れた。彼は矢の描く軌跡に静かに目を馳せると、腕を下ろしてこちらを見た。
本当に矢が放たれたのはたぶん、その瞬間だった。
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えとり(プロフ) - 瑞樹さん» 書き込みからお褒めの言葉までありがとうございます……！ゆったりとした更新ですが、応援していただけてとても嬉しいです^^ (2022年10月26日 20時) (
レス) id: 3ae1089047 (このIDを非表示/違反報告)
瑞樹(プロフ) - 文才があり過ぎて本当に尊敬します……。丁寧な描写がとても素晴らしいです！ 応援しています！ (2022年10月25日 19時) (レス) id: 943a21922c (このIDを非表示/違反報告)
えとり(プロフ) - ぴょんきちまるさん» 素敵な書き込みありがとうございます、その言葉に、私の心も嬉しさで痺れました…！続きもお楽しみください^^ (2022年10月15日 20時) (レス) @page22 id: 3ae1089047 (このIDを非表示/違反報告)
ぴょんきちまる - とても素敵な作品！読んでいて、凄く痺れました！わくわくしました。こんなにも次の話が楽しみで仕方ない作品に出会えて幸せです。 (2022年10月15日 11時) (レス) id: 94182d8a2a (このIDを非表示/違反報告)
えとり(プロフ) - enhy7さん» 書き込みとても嬉しいです…！体が浮いて飛び去ってしまいそうな、幻想的で素敵な曲のご紹介もありがとうございます。物語を引き続きお楽しみいただければと思います。 (2022年10月7日 19時) (レス) id: 3ae1089047 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：えとり | 作成日時：2022年9月12日 10時
