不思議な夜、幸せな日々。 ページ2
その日は妙に空気が澄んでいて、都会の中から抜け出してしまったような、不思議な世界に俺と薮はいた。
「今日スゲー寒ぃね」
コートにマフラーを身につけた薮がふるふると震えながら空を見上げる。俺もつられて空を見上げると、今日はやけに星が良く見えた。
「コーンポタージュ、飲みてぇな」
「あ、俺も飲みてぇ」
「すぐそこの公園の傍に自動販売機無かったっけ?」
「んー、そう言われればあったっけな」
「ジャンケンしようぜ」
「マジかよ」
俺が拳を出せば、楽しそうに笑いながら拳を出してくれる。こういう所は昔と何も変わらない。
「最初はグー、ジャンケン――……ッ!!」
公園のベンチに座って待つこと五分。両手に缶を持った薮が小走りで戻って来た。
「ご苦労」
「クッソ〜……」
「いやー、タダポタージュは良いもんですなぁ」
「タダポタージュの響きクソムカつく」
ジャンケンに負け、加えて奢るハメになった薮は少し拗ねた顔をして俺の隣に座った。
「っあぁ〜……あったけぇ……」
「なんだよその声、ジジイか」
「光も飲めば俺の気持ちが分かるって」
「えぇ〜? っあぁ〜……うめぇ……」
「そら見ろ」
クックック、と笑い声がしたけど、それを無視して缶を傾ける。開封したてのコーンポタージュが食道から胃に染み渡り、痛いような熱さが広がる。それがちょっと気持ちいい。
「この前まであんなに汗ダラダラだったのになぁ」
「だなぁ。気が付きゃ年の瀬目前だし」
「時の流れはホントに早い」
「まあ、なんたって俺らもとうとう10歳になっちゃったもんね」
「……長かったような、あっという間だったような……そんな10年だったな」
二人してしみじみと懐古する。当時は本当に大変だった。まあ、今も大して変わらないけど。
「みんなよくここまで成長したな、って思う時ない? 当時は想像もしてなかった、みたいな」
「あるある。特に圭人とかな。あいつはスゲーぞ」
「確かに」
ハハハ、と笑う二人の声が空に溶ける。
なんだか今日はいつに増して素直になれている気がする。やっぱり、不思議な夜だ。
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作者名:北斗千聖-Hokuto Chise- | 作成日時:2017年11月28日 14時