SORRISO【江口拓也】

第三話 ページ3

『本日カットを担当させていただきます
高橋Aと申します』


「お願いします！」


『どんな髪型になさいますか？』



タオルやケープを巻きながら
江口さんに話かける。


初めは人見知りで話すことが苦手だったけど
最近ではだいぶ慣れてきた。




「んー！かっこよくしてください！」



笑顔はとってもさわやかだけど
注文はなかなか難しい。


顔は整ってるしスタイルもいいから
どんな髪型でも似合うんじゃないかな。



『長さはどうしますか？』



「今よりちょい短めで！」



髪の毛をピンでとめながら
その茶色っぽい髪に櫛を通す。




『お仕事はなにされてるんですか？』



まずは定番の質問…

と思ったんだけど江口さんは
少しためらったような顔をした。




「一応、芸能関係ですかね」


聞いちゃいけなかったかな。

芸能関係ってことはモデルさんとか？



確かにスタイルいいし…



触れられてくなさそうだから
あんまり掘り下げないほうがいいよね。




当たり障りのない会話をして
３０分ほどでカットが終わった。



江口さんの私服を見る限り
おしゃれでちょっと奇抜な感じだから
髪型もちょっとおしゃれな感じにしてみた。




『いかがですかね？』



鏡で後ろ側も見えるようにしながら
江口さんに問いかける。



「うわー！え！めっちゃいい感じです！
もう完璧です！」



ここまで感動してもらえたのは
初めてなんじゃないかな。



男の人っていつももっとそっけないリアクションだから単純にうれしい。



『気に入ってもらえてよかったです』



お会計を済ませると
預かっていた荷物を手渡した。



「絶対また来ます！」



大きな声でそう宣言すると
江口さんは満面の笑顔で帰っていった。



・



・



予約のお客さんが帰って行って
本格的に片づけを始める。



「そういえば、さっき来た飛び込みのお客さんってモデルか何か？」



一緒に掃除をしていた先輩が
ふと手を止めて私に質問した。



『芸能関係って言ってましたけど…』



そう答えると特に興味もなさそうに
また、掃除に戻っていった。

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