第十五話 ページ15
SIDE EGUCHI
高橋さんの声を遮って
送っていくことを伝えると
壮馬の顔がわかりにくく歪んだ。
これはもしかしたらと思うけど
こんなところで引くわけにはいかない。
たとえ同じグループでも
たとえ同じ事務所の後輩でも
これだけは譲れない。
そんな思いが伝わったのか
壮馬は送っていくのをすんなりと諦めてくれた。
「じゃあ帰ろうか」
そう言って家路につこうとする肩に
不意に重みを感じた。
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・
「拓也さん、俺負けませんから」
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壮馬の声が耳元で聞こえたと思ったら
次の瞬間にはいつも通りで
俺と高橋さんに笑顔で手を振っていた。
宣戦布告ってわけか。
いよいよ負けてられないな。
・
・
「Aさん」
俺の一言で驚いたように顔をあげる。
その動きがいちいち可愛くて
言おうとしてたことを忘れそうになる。
「俺も下の名前で呼んでいい?」
会話しているうちにいつの間にか敬語は抜けていたけど
下の名前で呼ぶのはなかなか勇気がいった。
『はい!でも呼び捨てにしてください
Aさんって呼ばれるの
なんだか落ち着かなくて』
はにかんだ笑顔にノックアウトされそうになる。
「わかった、Aね!
俺のことも名前で呼んでくれる?」
普段は苗字かあだなで呼ばれることのほうが多いんだけど
名前で呼ばれる壮馬が羨ましくて
つい口にしてしまった。
『いいですよ、拓也さん』
何この子。可愛すぎるんですけど。
車道側を歩いたり
さりげなく気を遣うと
いちいちそれに気づいて照れてくれて
どれだけいい子なんだよって不安になる。
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・
家が近いとは聞いてたけど
歩いて10分ほどの距離に住んでるとは思っていなかった。
これならダサいジャージでコンビニに行ってる時に
ばったり会っちゃってたかもしれない。
名残惜しい気しかしないけど
マンションの前についてしまった。
『拓也さん今日は本当にありがとうございました』
お辞儀をしてるのを見ると
つい頭を撫でたくなるけど
急にそんなことして嫌われたくないから
ぐっとこらえて手を振る。
「おやすみ、A」
はにかみながら手を振る彼女を見送って
自分のマンションへと足を運ぶ。
家に帰る途中も帰ってからも
頭に浮かぶのはAの笑顔と
帰り際にささやかれた壮馬の言葉だった。
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ちぃちゃん - すごく素敵なお話でキュンキュンしました・・! (2020年5月7日 10時) (レス) id: d5505982b6 (このIDを非表示/違反報告)
みみみ - とっても面白くてドキドキしました!最高です!!作品名を見た瞬間、「あ、私これ好きww」ってすぐに気に入っちゃいましましたww (2017年7月2日 9時) (レス) id: 246cbbf759 (このIDを非表示/違反報告)
春菜(プロフ) - お疲れ様です!やっぱり、最高のお話でした!!最終話なんて、心臓が持たなかったですwこんなの初めて!!これからも頑張ってください!また読みます! (2017年7月2日 9時) (レス) id: cc7bae8682 (このIDを非表示/違反報告)
さゆ。(プロフ) - お疲れ様でした!通知来た瞬間読みました!素敵な小説ありがとうございました。これからの作品も楽しみにしています! (2017年7月1日 23時) (レス) id: d39a9d04da (このIDを非表示/違反報告)
flower(プロフ) - コメントありがとうございます!めちゃくちゃ嬉しいです!頑張ります! (2017年6月29日 23時) (レス) id: 1b5420c9a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:flower | 作成日時:2017年6月15日 19時