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【第四話】▼兄とは ページ4

私は弟のAと別れた数時間後、父に提出するはずの書類があった事を思い出した。
書類というのは仕事の一環で、私も最近手伝わせて貰っている。

仕事関係とあらば早い方が良かろう。
そう決断した私は、父がいる大広間へと足を運ぶ事にした。

絨毯が敷き詰められた鬱陶しいほどに長い廊下を渡り歩く。
大広間に繋がる扉が見えた時、違和感を覚えた。

いつもは家来の妖怪が一、二体しかいないのに、今日は妖怪が沢山いる気がする。

「通してくれ」

私が言うと、妖怪達は気付いて扉の端に寄った。
だがやがて、その一人が告げた。

「恐れながら紫炎様、今は先客がいるようで……」

「先客?そうか、では待っていようか」

今扉を押し開けて客人(?)と父の間に割り込んだらまずいので待っている事にする。

すると、偉大な父のよく通る声が聞こえて来た。
耳を澄ますと、信じられない事が耳に飛び込んで来た。

「A、王位を継ぐ気はないか」

紫炎は、思わず自分の耳を疑った。
森林のような深い緑色の髪に埋もれた右耳を触る。

「恐れながら、父上、何を仰っているのか分かりません」

次に、愛する弟の澄んだ声が聞こえて来た。
Aも戸惑っているのだろう。

「ふむ、分からぬか。
……そのままの意味だ、お前が欲するならば、わしの閻魔大王の座を譲ろう、とわしは言った。それだけだ」

閻魔大王の、座を?
紫炎は複雑な思いで聞いていた。
どうして父はそのような事を言ったのか。

なぜ、貴方は、私にはいつも厳しくあったくせに、Aにはいつも優しくなさるのだ……!

紫炎は自分の中にある醜い意思を自覚し、すぐさま振り払った。

弟も、愛している。
父も、……愛している。
けれど、大王になりたいと言う望みは、心の奥でうずき、決して薄れる事は無かった。

「……すみません、俺には継げません」

しばらくして弟の決断が聞こえて来た。
何故か、ホッとした自分がいた。

「……そうか。分かった」

父は話を切り上げる。
動く事が出来ないまま、私はその場に立っていた。
すると、目の前の扉が開き、弟が目に飛び込んで来た。

「……兄上!?」

Aは驚きの表情を浮かべていた。

「……A、偶然だな」

私はAの頭を撫でた後、入れ替わりで大広間に入って行った。









私の中にある醜い感情が、やがて自身を包み込む脅威になるとも知らずに。

【第五話】▼続き→←【第三話】▼弟とは


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紅夜叉 - 続き……ないんですか? (8月20日 0時) (レス) @page15 id: fd0ff1a17a (このIDを非表示/違反報告)
へきしょく(プロフ) - 面白いのでまた更新して欲しいです! (2020年10月11日 22時) (レス) id: 800e455777 (このIDを非表示/違反報告)
宵月夜(プロフ) - コメントしていただきありがとうございます!!ご期待に添えるように頑張ります!! (2019年3月10日 18時) (レス) id: 535f385a7d (このIDを非表示/違反報告)
魔戒 - 面白いです頑張ってください (2019年3月10日 16時) (レス) id: b1d63bb0ce (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:宵月夜 | 作成日時:2019年3月10日 12時

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