最期に君の声が聴けたなら。

【残り50週間】 ページ9

-A side-

そして酷いのはここから。酷いのは私。

お母さんが死ぬまで１ヶ月なのに

お父さんと全く同じことをしてしまっんだ。



怖くて。唯一の家族がいなくなるなんて。

現実をみたくなくて。夢であって欲しくて。



私はお母さんから逃げた。

お父さんが出ていってから1度も会いに行かなかった。

友達にもお母さんは大丈夫なの？って何度も聞かれたけど「へーきだよ！」とかいって誤魔化してた。



でも現実は現実。ついに時は来てしまった。




先生「東条さん！早く帰る用意をして！」



先生に連れられて着いた場所は病院。

目の前にいるのは

顔は血の気を失い、青白くなったママ。



『私、馬鹿なの？』




もう話せないママを見て、10歳にして後悔を知った。幸せは続かないものだと知った。


そして馬鹿で無知で嘘だらけの私を知った。


残り僅かの幸せを捨てて。

もう二度と後悔はしたくないって決めた、

8月24日の事。ちょうど11年前。


11年前、私とお母さんの幸せな日々は

一瞬にして崩れ、消えてしまった。


幸せを捨てて、後悔を残して。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


A「っとまぁこんな感じかな」




沈黙が流れる、重い。

ていうかこの事話して良かったのかな、嫌われたんじゃないかな。ころちゃんはお母さんの事をすごく大切にする子だし。


するところちゃんは私をぎゅっと抱きしめてくれた。


A「ちょっ！いきなりどうしたの...」

ころん「僕ね、言葉が見つからない。Aになんて声をかけるのが正解なのか分かんないんだ。ばかだから。だから、ごめん。こうするしかない」

A「うっ.........うぅ.......」


自然と涙が零れた。


過去のことを話した事

ころちゃんが私の事を大切に思ってくれてる事



全部、全部が積み重なって嘘まみれの心が溶かされた。


A「ありがとう、本当に。ころちゃん大好きだぁ！！」

ころん「どうしたの、普段は滅多に言ってくれないのに！でも、僕も好きだよ。」



病気の事はまだ言えない。

言う勇気がでるかどうか分からないけど

とりあえず今は今の幸せをかみしめよう。



いつかの未来で今を幸せだったな、と思い返せるように。



ころん「そういやね、A！僕ケーキ買ってきたの！明日なんの日か覚えてる？」

A「付き合って3年目でしょ？覚えてるよ、当たり前じゃん。」




あと1年はできる限り君と過ごしたい。



そう思った21歳の夏の話。

【残り49週間】→←【残り51週間】

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す