勇利の愛 ページ15
リンクに寄りかからせ、勇利のスケート靴の靴ひもを締め直したヴィクトルはきつくないかい？と尋ねると、大丈夫だよ、とリラックスした声が降って来る。
「今回は気負ってないんだね」
「うん、正直あんなに怯えている海咲ちゃん見たら、男の僕がビビってる場合じゃないかなって」
でも、怯えてても言い返す海咲ちゃんカッコ良かったなぁとくすくすと笑う勇利に、ヴィクトルはそうだけど、相手が謝ったら自分も謝る事の出来る海咲の素直さも凄いよねぇと肩を竦めながら立つ。
と、その瞬間リンク全体からヴィクトルコールが起こり、笑顔で手を振る彼に勇利はそうか、此処はヴィクトルのホームリンクで僕は此処からヴィクトルを奪った男なんだと気づくと同時にぞくぞくと背中に震えが走り口元が緩む。
そして、視線をあげるとすっかり顔色の戻った海咲が三脚にハンディカメラをセットして待ち構えていて・・・いや、既に撮っている様で赤いランプが点灯している。
目が合うとサムズアップしていて、味方が居るとわかり安心すると同時に闘争心が沸き起こる。
ふと、観客に満面の笑みで手を振るヴィクトルを驚かそうとネクタイを引いた。
観客全体からの声援に、俺やっぱりフィギュア好きだな、と思う。
海咲を失ってフィギュアへの情熱を失ったかと思ったけれど離れられなくて、その時に勇利のスケートを見た。
そのスケートには自分が失ったフィギュアへの情熱も感じたけれど、それとは別に自分が持ちえない煌きも感じた。
うん、この感覚だと納得している途中で、勢いよくネクタイを引かれ前につんのめる。
「ぅわ！」
「ヴィクトル、もう演技は始まっているよ」
甘い、誘うような声と顔に、ヴィクトルは良い顔だと笑う。
「うん・・・・そうだったね」
そこには、何時もの勇利ではなく、男を惑わせる町一番の美女が妖艶に自分を誘っている。
「安心して、ロシア中に僕の愛を見せつけるから」
くすっと笑う勇利にヴィクトルは海咲に向けるのと同じ甘い微笑みを向けて頷いてやると勇利の目に悪戯っぽい光が宿る。
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作者名：若桜 | 作成日時：2018年1月7日 22時
