愛しのキキーモラ６【ヴィクトル・ニキフォロフ】 (ページ5)

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里帰りと就活　～勤労感謝の日～　⑦ ページ5

今までヴィクトルの周りに群がって来た人間は居ても、ただ傍に居てくれたのは海咲と、良哉と富美香だけだった。
我儘を言っても、意地悪をしても、悪い事しても許してくれるだけ心の中に入れてくれたのもだ。

それ以外の人は皆ヴィクトルの容姿なり、スケートなり、財産なり、体なり、何かしら思惑を持って近づいてきた。
でも、欲しいのはそんな冷たい搾取するような関係ではない。

自分には家族の記憶がない。
マーマは居たけれど家庭を慈しむ人ではなかった。
ヴィクトルが賞金を持って来ても喜ぶ事はなく、褒めてくれるけれどぬくもりは無かった。
ヤコフも、受け入れてはくれたけれどそれは選手として認めてくれただけで家族ではない。

だけど、そんな冷たさに震えている自分に気づく事もなかったヴィクトルと、外を繋いでくれたのは海咲だったのだ。

あの、アイスリンクの外で泣いていたからこそ出会えた奇跡。

それを失いたくなくて、その温かさが欲しくて、執着し追い掛けて泣きついて口説き落とした。
少しずつ慣れさせて、自分との触れ合いにも嫌悪感を抱くことなく刷り込んだ。

あの、何も求めないただ差し出された優しさ。
僅かな時間にあっという間にヴィクトルに春を授け去っていったあの後姿に動けなかった自分をどれだけ呪ったか。

再び会えた時に自分は自分の容姿も立場も何もかも使って自分を売り込んだ。
そして、今腕の中に捕まえた温もりは、もう成人してしまったが故に誰も甘えさせてくれなかったヴィクトルを優しく迎え入れてくれる。
それも、無償の愛を降り注いでくれている。

だが、それを当然の事として受け入れる事は出来ない。
受け取るならばそれ以上を返さなければ失いそうで。

「海咲、好きだよ」

「？」

言葉にしないと胸にあふれるこの思いが溢れて窒息しそうで、言葉にすれば海咲に何かしらの反応があって、それが嬉しい。
言葉にして返せなくても、視線で、微笑みで、体に触れて、耳や頬を染めて反応してくれる。

「ヴィー、大好きだよ」

「っ」

消えそうな小さな声で返された海咲からの返事に、ヴィクトルは破顔した。