引き摺る �� ページ48
「あれ？
ヴィーそれORZO(オルゾォ)？」
「そうだよ」
飲んでみる？とカップを唇に寄せられ、受け取ろうと手を出すが放してくれない。
「えっと・・・・」
「ん？」
飲まないの？と聞かれ、数拍後カップに唇を付けてコクンと飲む。
「あ、美味しい」
「それは良かった」
恥じらいながらも、お茶の味に瞳を輝かせる海咲に優しい顔を見せるヴィクトルにクリスはあ〜ぁ、と天を仰ぐ。
「僕の周りみーんな恋人居るんだけど、ヴィクトルが一番幸せそうだ」
「当たり前だろ」
俺、今年のworld負ける気がしないと笑う。
「でも、どうしたんだクリス。
お前らしくないね、そんな弱音」
「弱音じゃないよ、ちょっと目の前であんなcrash(衝突)見ちゃって引き摺られそうになっただけ」
「あぁ、俺直接は見てないんだよね」
丁度背後だったと肩を竦める。
「僕と海咲ちゃんも音だけだよ」
「うん、音だけで鳥肌立った」
すっごく痛そうな音だったと身震いする海咲をヴィクトルは懐深く抱き締める。
「衝突した瞬間は、酷かったよ」
着氷に失敗した選手がバランスを崩した場所に別の選手が着氷してしまってお互いの遠心力で壁に激突したのだと眉を顰めた瞬間、
「クリス！」
「！？」
突然ヴィクトルから鋭い声で制止され、驚くが海咲の耳を塞いでいる彼の手に仕舞った、と気づく。
「・・・・・ごめん」
「・・・・・・・・」
ぷいっと怒って返事を返さない彼は、きょとんと見上げていた海咲の鼻にキスを落とし、耳から手を離す。
「ヴィー？」
「何でもないよ」
にっこりと笑う彼に、怪訝そうな顔をしつつ頷いた海咲は顔を強張らせたクリスと勇利に何となくの事情を察してしまう。
「ねぇヴィー、明日の練習ずっとヤコフ先生の横に居ても良い？」
「え？
・・・・良いけれど、カメラはあるよ？」
「うん・・・・うーん」
じゃあやっぱり観客席かなぁと言いながらどうしよっか勇利君、と相談する海咲に、勇利もヴィクトルにビクビクしながらそうだね、と同意する。
「あ、練習終わったらクリスも一緒に見ない？」
「え？」
「あぁ、そうだね！
それが良いと思うよ。
勇利だけじゃメディアの対応しどろもどろだし」
その間に海咲を撮られちゃうから、クリス頼むよ！と笑顔を向けられ思わずクリスは頷いてしまった。
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作者名：若桜 | 作成日時：2018年8月30日 20時
