いつか王子様が ページ35
緩やかに人が減って行き、提供される食事も最後の皿が出された頃、数人の女子が同じシャンパンに手を伸ばした海咲に気づき顔を強張らせる。
「あ、ごめんなさい」
最後の一杯だったのね、と笑い自分にそのシャンパンを譲り、別の銘柄を取ってヴィクトルの元へ戻ろうとした海咲に声を掛けた。
「ねぇ貴女、彼の何？」
「え？」
振り返った海咲の、全てがヴィクトルに関係ある色や素材で飾られた姿に彼女達は歯噛みする。
「彼を捨てた癖に！」
「彼から煌きを奪った癖に！」
「あんたなんか、彼に必要ないわ！！」
嫉妬と悲しみに染まった貌の彼女達に、海咲は無言でそれを受け止め受け流す。
「日本人ってだけの癖に！！」
彼に、何も与えられない癖に妻に収まって恥ずかしくないの！？と指摘され海咲はそうね、と頷く。
「私にはフィギュアスケーターである彼に、何も与えられるものはないわ」
「だったら！」
「だけど、彼の気持ちをその理由で、拒絶する理由にもならないわ」
「え？」
逆説なのだけれど、と苦笑を浮かべる。
「彼の気持ちを拒絶する理由を、スケーターである彼に何も与えられないからと仮定できないと言っているの」
何かを与えられないから好意を受け取らないのと、
何かを与えられないから彼を拒絶するのは、
全く別の理由が必要だと言えば、訳が分からないという顔をする彼女達に海咲は理由じゃないのだと告げる。
「私は彼が好き。
貴女達も、よね？
それを否定出来る人なんて居ないし、許せない」
何をっと気色ばむ彼女達は口々に罵詈雑言を投げつけるが、全く揺らがない海咲に思わず彼女達の一人が飲み終わっていたシャンパングラスを振り被る。
「あっ馬鹿っ」
「きゃあ！」
真っ直ぐに飛んできたグラスに臆する事無く叩き落した海咲に驚きに目を張る彼女達は、その海咲の無表情さに慄くと同時に、これ位で揺らがないならと加虐心が沸き上がる。
酒精で、彼女達の理性が低下している所為か、一気に顔が変わった彼女達に海咲はごめんね、と嗤った。
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作者名：若桜 | 作成日時：2018年4月2日 20時
