あぁ愛しのキキーモラ２【ヴィクトル・ニキフォロフ】 (ページ28)

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真冬の夜の夢　② ページ28

気まずくなり、そそくさと去って行った彼女達が居なくなると強く握った拳に気づき、海咲の拳を包み込む様に握る。
ヴィクトルの傍に居るだけで、悪意を向けられる海咲に対し、自分が出来る事は極僅かだ。
海咲は居るだけで幸せをくれるのに、海咲は自分が居るだけで悪意を投げつけられるなら、何時海咲が離れても可笑しくないという恐怖に憑りつかれそうになる。

「海咲」

「・・・」

「海咲、何が食べたい？」

「え？」

名前を呼ぶ度に体が硬直する海咲にヴィクトルが耐え切れず一緒に踊るのを我慢し、そう尋ねると、ぱっと顔が輝きカクテルグラスに入ったクラッシュゼリーが美味しそうだと指さす。

「あぁ、確かに。綺麗だね」

「やっぱりヴィーもそう思う？
あれってリキュールが入ってるのかなぁ？」

「入っていると思う。食べないの？」

酔っても、俺がちゃんと連れて帰ってあげるよ？と言えばくすくすと笑って海咲はホント？と首を傾げる。

「うん」

「じゃあ、食べようかなぁ」

あ、シードル(リンゴのお酒)がある！と喜ぶ海咲にヴィクトルは苦笑しつつ機嫌を直してくれた海咲にホッとする。

『意地悪なヴィクトル、嫌い』

そう言って、自分がした意地悪をそっくりそのままして、自分がした相手に謝らなかったら海咲も謝らずに喧嘩別れになった事が何度もある。
その中の二回は、許してくれないまま日本に帰ってしまい、そのまた一回は何時もならロシアに来たらすぐに連絡をくれたのにその時は来ていた事も知らず、知ったのは帰国する日・・・なんて事があった。
それ位、海咲は静かな分怒ると黙ってしまって居なくなる事を忘れていた、と目を伏せる。

(ごめん、海咲)

俺の所為で落ち込んでいたのに、気遣いのない自分の言葉に臍を曲げていた事に気づかなかった。
だけれど、それを文句を言わない代わりに怒りを飲み込んでしまった海咲に寂しさを感じる。