♯５ 悋気 ページ5
初夏の陽だまりは、どこか眠気を秘めている。
板の間にあぐらをかき、ぼぅっと物思いにふける。
(眠い…)
昨夜はエリンの面影が頭にちらつき、作業に集中出来なかった。
暖かな光に照らされる緑色の髪…
青白いぐらいの頬…
少し乾いた唇…
そして、何よりあの緑の瞳…
(おれは…いつから彼女の虜になったのだろうか…)
甘酸っぱい思いが粘膜のように、身体に染み込んで抜けなかった。
(ああ…)
だんだん彼女を避けることがばかばかしくなってきた。
おれは手で顔を覆い、目を閉じた。
聞こえたのは、自分の呼吸の音だけだった。
「んっ……」
黄昏の光が窓から差し込み、顔に当たる。蜜色に染まった部屋に影を落としてゆく。
寝てしまったのだろう。瞼が腫れぼったく、重かった。
(何か買ってくるか…)
夕餉のおかずがなくなったところだ。ついでに作業で必要な物も買えるだろう。
「…よっ…と……」
重い腰を上げ、のろのろと外へ出た。
この通りは、飲食店が多い。
焦げたにおいやらが四六時中空を漂っている。
行列の出来ている店を通ると、緑の頭が目に入った。
(目の錯覚だ。エリンでない)
しかし、身体が命令を聞かず、自然と目は緑の頭に向かっていた。 彼女らしき人は、確かにエリンだった。
しかし、彼女の隣にいる背の高い男が視界に入った瞬間、煮えたぎるような怒りが腹の底から沸きあがってきた。
(誰だ…)
しかも何気に仲睦まじく言葉を交わしている。それがますます怒りを増幅させた。
(誰だ… 誰なんだ…!?)
エリンに手出しするようなら、あの男を半殺しにだって出来る。
熱に浮かされたような自分自身を、おれは上手く操縦出来るだろうか。
彼女の隣の男が消え去るのを、路地裏でじっと待っていた。
「あ、そうですか。じゃあ、また後で」
彼女が例の男と別れた刹那、彼女はおれに気付いたようだ。
「あ、イアルさん、どうしました？」
怪しげに映ったのだろう。彼女は心配そうにおれを見つめる。
「いや…何でもない。 いつも並んでいる店だから、誰かしら知り合いがいるかと思ってな」
彼女は、虚を突かれたような表情で後退りした。
「…そう……だったんですか。失礼します…」
彼女は人の波を縫うように、颯爽と、でも、どこか悲しげな雰囲気をたたえながら姿を消した。
おれの心には、憤りだけが残った。
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冴野(プロフ) - 私もイアエリ好きです！更新頑張って下さい。 (2014年8月16日 1時) (
レス) id: 854f9bbd69 (このIDを非表示/違反報告)
ＸＯＯ - 他のも見てみたいです。（！−！）是非書いてください。 (2013年10月30日 16時) (レス) id: 3cf93702ad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：erincha@ | 作成日時：2013年5月3日 9時
