最後の夜 3 ページ22
.
冷やかしの声が部屋に響く。
私はというと、ハンビンの飾らない言葉に頬が赤くなるのを感じて、何も言えずにただ枕に顔を埋めた。
「やーい、A照れてやんの」
「ケイタ、うるさい」
「Aヒョンそんなに照れないでよ！俺もなんか恥ずかしくなってきちゃったじゃん！」
焦る声を上げるハンビンに、「ごめん」と呟き私はようやく顔を上げた。正面で寝転んでいたゴヌクが、心底楽しそうな顔で私の表情を覗き込んでくる。
「Aヒョン、顔真っ赤」
「うるさいなぁ、こう言うの慣れてないんだよ」
まだ熱を感じる頬を両手で押さえていると、「Aヒョン、誰かの第一印象言ってみてよ」とギュビンに振られた。
私は起き上がって三角座りに姿勢を正した。
「うーん、誰か1人の印象ってのは難しいな。如何せん最初は顔と名前が全然一致しなくて...」
「でた、人と関わらな過ぎて人の顔の覚え方忘れたって言ってたよな」
「そうなんだよね。でも、全員を一斉に目にした時、自分の発表の時かな、その時の感覚は覚えてる」
目を瞑ってみると、あの日の景色が鮮明に思い出せた。
見上げた先にいた、98人の練習生たち。
「あの時の皆、本当にキラキラしてたんだ。本当に98個の星が集まったみたいで。
これから始まるのは過酷な日々に違いないのに、そんなの取るに足らないものみたいに、目の前の大きな夢しか見えてないみたいだった。
そんな皆が、僕はすごく羨ましかった」
ここにいるメンバーの真剣な眼差しが私に向かっているのを感じた。
誰も揶揄わず、静かに私の話すことに耳を傾けてくれていた。
「コンプレックスと後ろめたさに溢れた自分が見抜かれそうで怖かった。それでも皆が僕の手を取って、仲間って言ってくれたのが嬉しかった。この合宿で、皆が僕の希望になってくれた。
ずっとお礼が言いたかったんだ。皆のおかげで明日が、未来が怖くないよ。ありがとう」
一粒の滴が頬を伝った気がした。恥ずかしいな、皆の前では泣きたくなかったのに。
急いで涙を拭おうとすると、正面に座っていたゴヌクが私の膝ごと大きな体で抱き締めた。
「やーっとAヒョンの泣いてるところ見れたわ。いっつも気張り詰めてばっかだったし」
「しんみりさせんなよ、俺も泣きそうになってきたわ」
「Aヒョン、ずるいよ。最後の最後でそんなこと言うの」
今になってやっと、私はこの愛しい日々の終わりを実感した。
最後の夜が、明けようとしていた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1090人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ダリア(プロフ) - 更新ありがとうございます！ (3月14日 22時) (
レス) @page25 id: 942cc2825c (このIDを非表示/違反報告)
さえ(プロフ) - 続きが見たいです😭 (12月30日 14時) (レス) @page24 id: 5c6fd2a21e (このIDを非表示/違反報告)
無添加 - 感動してます、本当に更新されてる、、生きててよかった、、、です。 (9月26日 2時) (レス) id: 5066827cbd (このIDを非表示/違反報告)
すいみ(プロフ) - ダリアさん» こちらこそ嬉しいコメントありがとうございます💘この亀更新なのに待っていただけたなんて嬉し過ぎます😭あと少し、最後まで見守っててください✨ (9月17日 23時) (レス) id: 112579e6aa (このIDを非表示/違反報告)
ダリア(プロフ) - 更新ありがとうございます😭ずっと続きが気になっててほんとにありがとうございます😢😢 (9月11日 17時) (レス) id: 942cc2825c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：すいみ | 作成日時：2023年6月16日 23時
