Interlude -休暇期間- 8 ページ48
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「笑わないでね」
「うん、勿論」
「初恋の子がね、言ってくれたんだ。歌もダンスも上手だなんて、アイドルみたいだねって。そしたら本当にその気になっちゃって、その日からアイドルを目指す様になったんだ」
「初恋...」
返ってきた意外な答えに、私は目を丸くした。
ハンビンも恋をすることがあるのか。そんな当たり前のことが、私にとっては少し予想外だった。
歌にもダンスにもストイックで、リーダーシップも備わったこの完璧とも言える人間の、アイドルを目指すきっかけを作り出したのが初恋の人の発言だなんて。
急に人間味を感じた。だけどそれは嫌なものではなく、彼をより魅力的な人間に見せるスパイスみたいなものだった。
ギャップっていうのは、このことなのかもしれない。
「幻滅した?アイドル目指しているくせに、そのきっかけを作ったのが過去の恋愛だなんて」
「ううん、まさか。意外だったけど、そういう人間味があることが知れて安心したよ」
「そっか、よかった」
彼は照れ臭そうに頬を弛ませた。
その飾らない表情は、ステージの上で輝く笑顔を浮かべる人物とは異なった、何処にでもいる一大学生と何ら変わりなかった。
赤信号で、車が緩やかに停止する。ハンビンの運転は心地が良くて、つい瞼が重くなってしまう。
「A」
車の外に見える夜の街の灯りを眺めていたところ、ハンビンに呼びかけられゆったりと彼へと顔を向き直した。
彼の視線は、目の前の信号を捉えていた。私は彼の次の言葉を待ちながら、その端正な横顔を見つめていた。
「俺、ほんとうはね、あのパスポートを拾う前から君が女の子だって知ってたんだよ」
急に話題が転換し、私は思考が追いつかなかった。
うつらうつらとしていた頭の中が、一気にクリアになった。
「え、あの、何の話...?」
私が急にしどろもどろな口調になったからか、ハンビンは小さく噴き出した。
そして、ゆっくりと彼の顔がこちらを向く。目を眩しそうに細めて緩く口角を上げた彼は、まるで愛おしいものを見るかのような表情をしていた。
そんな彼の顔を見るのは初めてで、胸の鼓動が早まるのを感じる。
ハンビンはゆっくりと、私が聞き逃さないでほしいのかのように丁寧に言葉を紡いだ。
「初恋の人は、君だよ。A」
世界から音が消えたみたいだった。
彼から発される言葉だけが鮮明で、なのにいつもより頭の回らない私は、彼の言葉を理解するまで彼から視線を外せなかった。
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すいみ(プロフ) - ぴさん» コメントありがとうございます🫶💕 一気読みして頂けたなんて嬉しい限りです🥰更新頑張ります!! (6月12日 21時) (レス) id: d55745dbd9 (このIDを非表示/違反報告)
ぴ(プロフ) - きゃーーーーー!!てんかいがーーーー!!ハンビンーーーー!!!きゃーーー!ここまで一気見しちゃいましたーーー!!!続きが…早く…気になります…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(語彙力) (6月12日 0時) (レス) @page48 id: d5c63dc535 (このIDを非表示/違反報告)
すいみ(プロフ) - なのこ5546さん» 嬉しいコメントありがとうございます😭💕 とっても励みになります!中々進まないですが見守って頂けたら嬉しいです🫶 (5月23日 22時) (レス) id: 3559a141aa (このIDを非表示/違反報告)
なのこ5546(プロフ) - 最新話の主人公ちゃんがスンと冷え切った感じ最高です!!重すぎないシリアス展開好きなのでワクワクしながら読んじゃいました(笑)更新は大変だと思いますが頑張って下さい!応援しています💓 (5月23日 20時) (レス) @page30 id: 2327b9d39c (このIDを非表示/違反報告)
すいみ(プロフ) - 本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好きさん» 嬉しいコメントありがとうございます🥰ご指摘のところ完全に書き忘れており、最新のはユジン目線です💦お伝えいただき助かりました、ありがとうございます🫧 (5月20日 19時) (レス) id: 3559a141aa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:すいみ | 作成日時:2023年5月3日 15時