第2回生存者発表式 3 ページ18
.
生存者発表式が終わってからは、ずっとイェダムの涙が頭から離れなかった。
私はあの時彼にかけるべき言葉が見当たらず、彼の涙が落ち着くまでずっと手を握ることしかできなかった。
私が彼に言葉をかける資格なんてないと思った。イェダムだけでなく、脱落してしまった練習生の誰一人にも気の利いた言葉をかけることができなかった。我ながらに情けないと思う。
眠りにつくこともできず、かといって誰かと過ごす気持ちにもなれず、私は宿舎の部屋に一人で取り残されていた。
オリーもテレも他の部屋を訪ねているらしく、中々帰って来ない。いつもは騒がしい廊下も、今日は誰の声も聞こえてこない。この部屋だけでなく、宿舎全体が鬱々とした空気に飲み込まれているみたいだった。
ベッドの上に座り込み、目の前の壁をひたすら見つめていた。
「...なんで」
なんで私はここにいるんだろう。
なんで残ってしまったのだろう。
考えてもどうしようもないことが頭の中を渦巻く。
私がここにいるのは亡くなった兄の代わりにこのオーディションに参加する必要があったからだ。
私がまだ残っているのは、世界に散らばる数多くの視聴者が私に投票したからだ。
答えは分かっているのに、この問いは私の頭を支配し続けた。人混みから抜け出せない子供みたいに、考えが前にも後ろにも進まなかった。
思考の海に沈んでいた私は、部屋の扉が開く音にすら気が付かなかった。
「Aヒョン、まだ起きてる？」
テレの声が聞こえて私は壁の一点に向けていた視線を徐に彼へと移した。入口で靴を脱いだテレは、角からからひょいと顔を出してこちらを窺っている。
「テレ寝るの？それなら電気消していいよ」
「そろそろ寝るけど、ハンビニがAヒョンの様子見てこいって。体調悪かったの？」
「そんなことないよ。大丈夫って言ったんだけどな...」
「ヒョンの大丈夫は信じるなって、ハンビンしつこいくらい言ってる」
「あの子僕のことなんだと思ってるだろう...」
「ほんと、どっちが年上かわかんないね」
そう笑いながら言ったテレは電気を消すと、自分のベッドへ移動し布団の中に潜り込んだ。
私も三角座りしていた足を解いて寝る準備を始める。布団を被ってふと顔を横に向けると、暗闇の中隣のベッドのテレと目が合った気がした。
暫くの沈黙の後、テレが口を開く。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 811人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
すいみ(プロフ) - ぴさん» コメントありがとうございます🫶💕 一気読みして頂けたなんて嬉しい限りです🥰更新頑張ります！！ (6月12日 21時) (
レス) id: d55745dbd9 (このIDを非表示/違反報告)
ぴ(プロフ) - きゃーーーーー！！てんかいがーーーー！！ハンビンーーーー！！！きゃーーー！ここまで一気見しちゃいましたーーー！！！続きが…早く…気になります…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(語彙力) (6月12日 0時) (レス) @page48 id: d5c63dc535 (このIDを非表示/違反報告)
すいみ(プロフ) - なのこ5546さん» 嬉しいコメントありがとうございます😭💕 とっても励みになります！中々進まないですが見守って頂けたら嬉しいです🫶 (5月23日 22時) (レス) id: 3559a141aa (このIDを非表示/違反報告)
なのこ5546(プロフ) - 最新話の主人公ちゃんがスンと冷え切った感じ最高です！！重すぎないシリアス展開好きなのでワクワクしながら読んじゃいました（笑）更新は大変だと思いますが頑張って下さい！応援しています💓 (5月23日 20時) (レス) @page30 id: 2327b9d39c (このIDを非表示/違反報告)
すいみ(プロフ) - 本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好きさん» 嬉しいコメントありがとうございます🥰ご指摘のところ完全に書き忘れており、最新のはユジン目線です💦お伝えいただき助かりました、ありがとうございます🫧 (5月20日 19時) (レス) id: 3559a141aa (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：すいみ | 作成日時：2023年5月3日 15時
