Please (not) Pick Me 3

Interlude -休暇期間- 6 ページ2

.


1階の入口のロックを解除すると、3分もしないうちにもう一度インターホンの音が部屋に響く。

急いで玄関の扉を開けると、ロングペディンを身に纏ったAが足踏みをしながら待ち構えていた。3月は夜はまだ冷え込むとはいえ、防寒対策はばっちりみたいだ。


『お邪魔しまーす、あー寒い寒い』

『ちゃんとチキン買って来た？』

『当たり前じゃん、はい』


差し出された紙袋を受け取り、俺はそそくさと居間に戻った。Aは着込んでいたペディンとマフラーを脱ぎ玄関脇のフックに掛けると、俺に続いて居間に入る。


『マシュー今ここ一人なの？』

『うん、じゃないと流石に呼べないって』

『...勢いで来ちゃったんだけど、マシュー怒られたりしない？』

『マネージャーヒョンに報告したから大丈夫だよ』


今更心配性を発揮するAを横目に、俺は早速今夜の晩餐をローテーブルの上に広げて2人分のグラスにコーラを注いだ。
俺の隣のクッションに腰を下ろしたAに片方のグラスを手渡し、掲げる。


『かんぱーい』

『うん、かんぱーい。初マシューの宿舎突撃ということで』


お酒でも無いのにAはちびちびとグラスからコーラを飲む。
お腹が空いていたせいで俺はすぐ目の前の食事に齧り付いたが、Aは相変わらず食に興味はなさそうでテレビのチャンネルを弄っていた。


『あ、ボーイズプラネットやってる。再放送かな』

『えーいいよ恥ずかしいから』

『折角だから観ようよ、私皆で集まった時の一回切りしか観てないんだよね』


机に広げたチキンには目もくれず、彼女はテレビに流れる俺たちの練習風景を眺めていた。


Aらしいな、と思った。

これだとインターネットやSNSでの反応も知らないのだろう。


『カナダ産エンジェル、スーパーオールラウンダー』

『...なにそれ？』

『AがSNSで呼ばれてるあだ名、人となりも実力も、もちろん見た目も含めて付けられたみたいだよ』

『そんな大層な...人となりなんてこんな切り抜かれた場面の継ぎはぎからじゃ分からないのに』


そう言って彼女はチキンの付け合わせとして入っていた漬物に箸を伸ばした。揚げ物は嫌がるが、大根なら口に入るらしい。


『結局のところ私達は番組のおもちゃでしょ。最初持ち上げられても、演出のためには後でどう編集されるかなんて分からないよ』


随分と悟ったことを言う彼女に驚いて、ついチキンに伸ばそうとした手が止まった。


.

Interlude -休暇期間- 7→←Interlude -休暇期間- 5

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す