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ページ15

『ちょっと待って助けて景光くん本当に無理』

「え〜と……」

『切ろうとするとめっちゃコロコロ転がるんだけど手ぇ切っちゃうよ!』

「Aちゃん、にんじん切るだけだよ…?」

『それが無理って言ってんの!』



私が手に持っているのは包丁。

まな板の上にはにんじん。

それを見守るのは困った顔の景光くん。



そしてこの年でにんじんすらまともに切れない私が半泣きになっている。



「Aちゃん、包丁を怖がらないできちんと食材を押さえないとそれこそ危ないよ?」

『わ…わかってるんだけど!』

「ん〜……じゃあこうしよつか」



すると景光くんは私の背後へと移動した。



そして私の両手をにんじんを切る格好に戻し、上から自分の両手を重ねた。



ふわりと景光くんの甘い匂いがして彼と密着していることに気づくまでに少し時間がかかった。



『え、ちょ……』

「ほら、ちゃんと押さえて。食材を押さえるときは猫の手、って聞いたことあるでしょ?」

『あ、あるけど…』

「そう、こんな感じ。じゃ、包丁動かすからね」



私はそれどころではないというのに、景光くんは気にせず包丁を動かして野菜を切る。

彼の手が動くと同時に私の手も動くことになるので、まるで人形のように操られて切っている感覚。



私の手は景光くんの手にすっぽりと収まってしまっていて、彼の冷たい体温が伝わってくる。

心が温かい人は手が冷たいって本当なのかもしれない。



にんじんが全部切れると、私は『ぷはぁ』と息を吸い込んだ。

いつの間にか息をとめてしまっていたらしい。



『お、終わった…』

「どう?なんとなくわかった?」

『う、うん。包丁は怖くなくなった……かも』



私は再び包丁を手に持ち、今度はじゃがいもをまな板に置いてみる。



そしてさっきの感覚を思いだし、包丁を動かしてみた。



『…ど、どう?できてる?』

「うん、すごく上手くできてるよ。えらいな」

『えらいって……子供扱いしないでよね』



でもありがとう、と私は小さく言った。



きっとどんなに強がったって、彼には勝てない気がする。

・→←ふたりきり



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くるみ(プロフ) - とっても面白かったです (10月6日 0時) (レス) @page47 id: dd662f3c96 (このIDを非表示/違反報告)
Rei(プロフ) - はじめまして、景光くんの優しさや真面目さが大好きなので、景光くんの一途な思いに凄くときめきました。素敵な作品をありがとうございます。 (2022年9月21日 3時) (レス) @page47 id: 8f97d5546c (このIDを非表示/違反報告)
江良(プロフ) - 足軽さん» コメントありがとうございます!大好きだなんて嬉しいです…!このお話が栄養剤になるなんて光栄です(笑)疲労をほぐして頑張ってくださいー! (2022年8月28日 15時) (レス) id: 37f133a8ec (このIDを非表示/違反報告)
足軽(プロフ) - 大好きすぎます………栄養剤になりますありがとうございます………疲労によく効く…… (2022年8月28日 15時) (レス) @page1 id: 762e6989c9 (このIDを非表示/違反報告)
江良(プロフ) - 田舎ママさん» コメントありがとうございます!素敵だなんて…!めちゃくちゃ嬉しいです!こちらこそ最後まで読んでいただきありがとうございました! (2022年8月19日 12時) (レス) id: 1888b997ab (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:江良 | 作者ホームページ:**  
作成日時:2022年7月19日 22時

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