三文は凡そ百円／kmmr ページ2
ゆらゆらと揺れる青、碧、あお。水面の陽が透けて、視界がきらきらと煌めいている。薄ぼんやりとした視界は水中であるせいか、眼鏡がないせいか。揺蕩うままに浮遊感に従えば、光る水面は近づいて。
(ああ、目覚めたくないなあ)
雨音と温もり、目覚めてまず感じ取ったのはそれだった。
まだ闇ばかりを捉える目を瞬いて、視界と同様にぼやける頭を起こすために深呼吸。少しだけ冷めた空気が肺を満たして、吐息の熱もふっと霧散した。明晰夢から覚醒の状態への移行は意識的にも負担がなくて良い。早起きもまた良い、凡そ百円の得。
曇天に明度で時間を図ることは能わず、しかし自分を抱き締める男が窓越しの薄明にシルエットになっていることから、おそらく朝だろうと予測する。昨日帰りしなに見た、空に尾を引く飛行機雲を思い出した。今日は撮影があったはずだ。容易に予測できるいつも以上の人混みに、河村はひっそりと嘆息する。
下着だけを纏った体は、目覚めて意識した寒さに震えはしたものの抱き締められているお陰で冷えてはいない。大洋のように包み込む体温、波と同じ速度の呼吸が、ひどく心地良かった。じわじわと心が幸せで満ちていく。
が、しかし。致命的な問題、起きられないのだ。絡まる脚を解くのが惜しい。熱に浮かされてない思考のまま素肌に触れられる時間が惜しい。いつも先に起きていて見られない寝顔を、己の一挙で逃してしまうのが、どうにも惜しい。しかし二度寝はまずい。でも起こすのも忍びない。
だから思考の結果、仕方ない、もう少しだけ、川上が脚をがっつり絡めているので僕は逃げられませーん……と理由をつけて、河村がその腕の中で微笑するのは自明の理だった。数分後にはちゃんと、起きる気でいる。
──好きだな、と思う。
好きになった切欠も、こうやって素足を絡めて眠るようになった経緯も、互いに向けた感情も、気づいた癖も、眼鏡の為にサイドテーブルを買うような気遣いも、全てひっくるめて、好きだ、と。涙袋、今は瞼の裏で眠る瞳、ピアスホール、考え事をしているときはへの字に歪む唇、柔らかく低く響く声。川上という男を構成する全てが、河村にとっては愛おしい。好きなところだけで、否、その癖だけで記事一本、クイズ十問なんて余裕で書けそうなくらいにはもう、長い時間を共にした。書いたところでどこにも出せないし、たとえそれが青春より甘やかなものであったとしても、共有したくないという思いはあるが。
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仰げば尊死(プロフ) - 蓮華さん» コメントありがとうございます。こころの揺れや一つ一つの感情を丁寧に書こうと決めていたのでそう言っていただけて嬉しいです。ありがとうございます！ (2020年3月17日 21時) (
レス) id: ddcb5679ba (このIDを非表示/違反報告)
仰げば尊死(プロフ) - みーさん» ありがとうございます。最初は報われるはずだったんです……恋is難解ですね……………… (2020年3月16日 15時) (レス) id: ddcb5679ba (このIDを非表示/違反報告)
みー(プロフ) - 綺麗……とても綺麗ですね。そこらじゅうに舞っている星が柔らかかったり鋭かったり、眩しかったりもう消えてしまいそうだったり。恋とは複雑なものですね。 (2020年3月15日 23時) (レス) id: 62afb683b5 (このIDを非表示/違反報告)
仰げば尊死(プロフ) - みーさん» やはり現実の温かみに勝るもの何も無し……という心持ちで(あと甘々が書きたくて仕方なかった)書きました。ありがとうございます！！ (2020年3月12日 18時) (レス) id: ddcb5679ba (このIDを非表示/違反報告)
みー(プロフ) - 最高……いや最高ですよ……ありがとうございます。甘々、甘受しました。データもいいけど実体験には叶わない。どっかの誰かさんの記事にも、そういえばそんな記述がありましたね(笑)とてもいいお話でした。これからも応援しています。 (2020年3月11日 2時) (レス) id: 62afb683b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：仰げば尊死 | 作成日時：2020年2月9日 15時
