気 ページ10
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チャイムが鳴った。
次は文字数ちゃんと数えりやー、と手をひらひら振って、席に着く。
『返事は』の返事は、横道に逸れていった会話のおかげでせずに済んだ。
…また同じこと聞いてくるんやろうけど。
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返事は、って言うたって、私はまだ付き合うとかそういう類の好きをわからへんし、田沢くんのことも全然知らんし、なんなら田沢くんやって私のこと全く知らんやろ。
( ・・やったら、なんで好きになってくれたんやろう )
他人が向ける直線の視線。まっすぐさ。今にも溶けそうやのに溶けへんまま、誰かに繋がっている。
私はそれを知りたいって思っとったのに、今は少しだけ億劫さがある。
宮と喋ったあとは大抵。
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――あー、古典の予習、昨日のうちにやっといてよかったわ。
残り香の残滓、のようなものが私の鼻を掠めさせるほどの近くに漂っていて、集中できない。
・・あかん、右から左や。
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「A、明日放課後なんか用事ある?」
――話を頭に入れよう入れようと必死だった古典の授業が終わってすぐ、私は宮に話しかけられた。
デートに誘うときみたいやな、って一瞬、自意識にも似たむず痒い感想を持ってしまった自分がアホとしか思えれへんわ。
なんでこういうことだけはわかんねん、アホやんほんまアホ。恥ずい。
すぐに切り替え(ようと努力し)て、明日の予定を脳内カレンダーで確認する。
「今のとこ何もないけど」
「ほんま?じゃあ一緒に帰んで」
「え?いや、あ、うん」
言い方と時と場合によっては誤解を招くかもしれへんことを、なんでサラッと言えるねん…さすがモテてるだけあるわ……
口には出さへんけど、すごいよなあとは思う。心の中で。
応援見にきてくれた子とか、隣の席の子とかにもこういうこと言ったりするんかな、なんて、
気になったところで仕方ないのに考えだけはカーブしたり急ブレーキをかけたりしながら、そこそこの速度で突き進んでいく。
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作者名:沖司ハナ | 作成日時:2018年5月27日 23時