371. ページ27
.
飛雄がコートに戻ってからの流れは早かった。最初こそ自由奔放な条善寺のペースに呑まれていた烏野だったが、普段通り自分達らしいプレーを崩さずストレートで勝利を収めた。
試合を終えた部員達の元へ駆け寄ると、物凄い勢いでハイタッチを求めてくる田中先輩と西谷先輩。私の後ろへ逃げ隠れる仁花ちゃんを守るように脚元に踏ん張りを入れれば、ダークホースである縁下先輩が上手いこと二人を鎮めてくれた。
＿＿＿さすが縁下先輩、堂々たる貫禄です。
先輩達と通常のハイタッチを交わしたのち、私は素早く大好きな彼の元へ駆け寄っていく。
『飛雄ー！おめでとう！お疲れ様！』
「おう」
『今日も格好良かったよ〜！大活躍だったね！』
下から覗き込んで興奮気味に距離を詰めると気恥しそうに首元へ手を持っていく。強気な表情ばかり見ているからか、こうして素直に照れている姿は新鮮だ。尋常ではないくらいに可愛い。
逸らされていた蒼い双眸が再び私を捉えた矢先、不意に伸びてきた両手が中途半端な場所でピタリと動きを止めた。疑問の眼差しで見上げればハッとした様子ですぐにその腕を引っ込めている。己の取った行動を誤魔化すためか、意味のない咳払いがその場に響く。
気まずげに宙を彷徨う視線と桃色に染まっていく頬を見て、悪戯な表情を作った日向くんが飛雄の脇腹を肘で小突いてみせた。
「ひょっとして影山くん、いまAのこと抱き締めようとしてましたね？」
「なっ、！」
「感情が昂って抱き締めたくなっちゃったのか〜。さすが本能のままに生きてる影山くんで、──ッいててて！！」
「お前それ以上勝手なことペラペラ喋ったらどうなるか分かってんだろうな」
「事実しか言ってねぇじゃん！」
にやにやと歪んでいた日向くんの表情が苦痛の一言に一変する。メキメキと不安になるような音を立てているオレンジ色の頭部が飛雄の圧力によって徐々に下がっていく。
静止をかけるために見上げた先の面貌がこの世のものとは思えないほど恐ろしくて思わず喉が鳴った。親の仇なんて言葉じゃ物足りないくらいに狂気じみている。まさに憤怒を幾重にも塗り固めた”悪役”にピッタリな恐ろしさだ。
抜け出した日向くんを追いかけようとする腕を引いて、彼の動きを強制的に止める。「あとでいっぱい抱き締めてあげるから許してあげて」と懇願の眼差しを送れば、瞬時に折れてその提案を呑み込んでくれた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3739人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
惠音(プロフ) - mbftmmさん» 嬉しすぎるお言葉ありがとうございます！独特な書き方をどう感じてもらえるか不安だったんですけど、そう言っていただけて本当に嬉しいです....！まだまだ物語は続きますので、最後までお付き合い頂けると幸いです！！ (10月12日 10時) (
レス) id: eb865940ec (このIDを非表示/違反報告)
惠音(プロフ) - yokyo586さん» 励みのお言葉ありがとうございます！影山くんとのお話だけど、月島くんの良さを出来る限り表現していきたいと思いまして....！幸せだけじゃなくて切なくて辛い感じとか、リアルな恋愛を書くよう心掛けていますので....そのへんも楽しんで頂けたら幸いです！ (10月12日 10時) (レス) id: eb865940ec (このIDを非表示/違反報告)
mbftmm(プロフ) - 主様は天才ですか？天才ですね？きゅん死寸前です……言葉の綴り方も上手で世界に入り込んでしまう…！！！応援してます！！！！！！ (10月12日 0時) (レス) @page11 id: 17c26d4027 (このIDを非表示/違反報告)
yokyo586(プロフ) - 切ない···影山大好きなのに、月島を応援したくなっちゃう···読み手の心を鷲掴みに出来る作者様すごすぎます！キャラの心情や背景がすっごく分かりやすくてスっと物語に入れちゃいます！ (10月9日 21時) (レス) @page11 id: 1b6531e2bb (このIDを非表示/違反報告)
惠音(プロフ) - まゆ華さん» この作品を見つけてくださってありがとうございます！面白いと言ってもらえて嬉しいです....！これからも楽しんでもらえるように頑張りますので、よろしくお願いします！ (10月4日 20時) (レス) id: eb865940ec (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：惠音
| 作成日時：2023年9月30日 19時
