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『飛雄！大丈夫？！』
「・・・ああ、問題ない」
「じゃあAさん、影山お願いね！」
『あ、うん。ありがとう山口くん』
穏やかに微笑んでみせる山口くんが会場へ戻っていくのを暫く見つめ、視線を持ち上げる。蒼い眼差しは白熱したコートへと固定されて、彼の心情はいま不完全燃焼でいるのだとすぐに理解出来た。
無理をするのは間違っていると飛雄自身も分かっているのだろう。渋々コートに背を向けたのがその証拠だ。それでもその悔しい思いを呑み込むのに、拭えないもどかしさがあるんだよね。
一分一秒でも長く、あの場に立っていたいよね。
『大丈夫、すぐにコートに立てるよ。だから今は少しだけ我慢して？』
「・・・おう」
鼻先を移動させた飛雄は諦めたように目を伏せた。名残惜しそうに立ち尽くす左手を優しくひいて、医務室へと歩み進める。
顔面の半分ほどを埋めている白い紙切れはだいぶ赤黒く染まってきていた。一度足を止めてポケットからティッシュを何枚か取り出し、「交換して」と押し付ける。新しい紙切れを宛てがう飛雄から染まったそれを受け取ると、通路脇にあった屑籠へ捨てに行く。
無駄な会話を持ち出さずにただ寄り添い続ける私に、飛雄は何も言わずに大人しく従ってくれていた。
『問題なくて良かった！これでまた試合出れるね！』
幸い、鼻血はすぐに止まった。医師からも試合続行の許可を貰い、会場の歓声が近づくたびに顔色を弾ませる飛雄に口元が緩む。
私の一歩前を歩く彼から様子を伺うような視線を寄越されると、固く閉じていた薄い唇がようやく割られた。
「A」
『ん？』
「ありがとな」
発せられた凛とした声音に視線を持ち上げる。ひどく柔らかな笑みを刻む蒼い双眸と絡まり合うと、肋骨の内側からじんわりと温かさが広がっていく。
＿＿＿ちゃんと飛雄の力になれていることが嬉しくて。不器用な彼の、言葉足らずな優しい想いに胸が締め付けられる。
『・・・うん』
温かな優しさを汲み取った私は、僅かに伏せた瞳を細めて微笑を重ねた。触れそうで触れ合わない場所にある大きな掌にこつんと自身のを当てると、すぐに繊細さを孕んだ指先が絡んでくる。たったそれだけが嬉しくて、幸せで。
＿＿＿あぁ、好きだなって。
大好きだなって、大きな声で叫びたくなった。
言葉に出来ない面映ゆさと幸福が、
会話のない二人の空間に優しく流れていた。
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惠音(プロフ) - mbftmmさん» 嬉しすぎるお言葉ありがとうございます！独特な書き方をどう感じてもらえるか不安だったんですけど、そう言っていただけて本当に嬉しいです....！まだまだ物語は続きますので、最後までお付き合い頂けると幸いです！！ (10月12日 10時) (
レス) id: eb865940ec (このIDを非表示/違反報告)
惠音(プロフ) - yokyo586さん» 励みのお言葉ありがとうございます！影山くんとのお話だけど、月島くんの良さを出来る限り表現していきたいと思いまして....！幸せだけじゃなくて切なくて辛い感じとか、リアルな恋愛を書くよう心掛けていますので....そのへんも楽しんで頂けたら幸いです！ (10月12日 10時) (レス) id: eb865940ec (このIDを非表示/違反報告)
mbftmm(プロフ) - 主様は天才ですか？天才ですね？きゅん死寸前です……言葉の綴り方も上手で世界に入り込んでしまう…！！！応援してます！！！！！！ (10月12日 0時) (レス) @page11 id: 17c26d4027 (このIDを非表示/違反報告)
yokyo586(プロフ) - 切ない···影山大好きなのに、月島を応援したくなっちゃう···読み手の心を鷲掴みに出来る作者様すごすぎます！キャラの心情や背景がすっごく分かりやすくてスっと物語に入れちゃいます！ (10月9日 21時) (レス) @page11 id: 1b6531e2bb (このIDを非表示/違反報告)
惠音(プロフ) - まゆ華さん» この作品を見つけてくださってありがとうございます！面白いと言ってもらえて嬉しいです....！これからも楽しんでもらえるように頑張りますので、よろしくお願いします！ (10月4日 20時) (レス) id: eb865940ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：惠音
| 作成日時：2023年9月30日 19時
