どうして【ut】 ページ9
俺は彼女に甘えすぎていたのかもしれない。
彼女は、浮気をしても笑顔で帰りを待っていてくれたから。
あぁ、この子なら大丈夫だ、って勝手に思って。
今日も帰れば、笑顔で迎えてくれる。
「カナちゃん、愛してるで♡」
電話中、彼女が目の前にいてもお構い無し。
「あっ、....行こか！」
浮気相手とデート中、彼女と街中でバッタリ会ってもお構い無し。
だって、許してくれるから。
今日だって、そのはずだった。
いつも明るいはずの窓に明かりがなく不信に思うも、彼女は寝ているのだろうと思い、玄関をあける。
だが、彼女は寝ておらず、暗いリビングでぽつんと座っていた。
「めっちゃ暗いで？目悪く『鬱くん』
彼女に声をかけると、遮るように声をかけられる。
『ごめんなさい。別れて』
「...は？」
突然そう告げられ、頭の整理が追い付いてない。
『本当にごめんね。もう、限界なの』
「限界、って...なんで！？」
『私....もう浮気に耐えられないの。今までは一緒にいれたら幸せだった。必ず帰ってきてくれるから。
でも、もう苦しいの』
...彼女は許容してくれていたわけではなかった。
ただ、俺のことを信じてくれとったんや...。
『最近街で鬱くんを見かけて、思わず泣いちゃって。
そこでね、声をかけてくれた人がいたの。
私を気遣ってカフェに連れていってくれて、初対面なのに話を全部聞いてくれて、優しく声をかけてくれた。
...鬱くんは、こんなことしてくれなかった。
私ね、最低だけど、鬱くんがいながら、』
嫌な予感がした。どこか嬉しそうに喋る彼女の言葉の続きを、聞きたくなかった。
『その人に...惹かれたの』
あぁ、神様。なんで、
『鬱くんには、いっぱい女の子がいる。私がいなくなるくらい、問題ないでしょ...？』
寂しそうに俺の顔を覗きこむA。
それに答えることはできなかった。だが、俺の口は勝手に動き出して、
「...ちなみに、その相手、名前なんていうん...？」
『....エーミールさん、...へへっ』
相手との会話を思いだしながら楽しそうに笑う彼女。
...エーミールやて...？
「なんでエーミールなんや！！俺の方がええよ！？あいつ、女慣れしてないし、それに、」
『知り合いなの...？
あのね、鬱くん。女に慣れてるか慣れてないかなんてわからない。でも、彼は、とても優しくて暖かかったよ』
俺には...君の隣にいる資格はないんか...？
外に出ていく彼女を、俺は引き留められなかった。
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作者名：あおたん | 作成日時：2019年8月3日 15時
