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『…また、人を殺しにきたの?』


緊張のせいか口の中がカラカラだか
それに構わず、そっと尋ねた。

彼はそんな私の姿に、

滑稽だな、と呟き

ゆっくりと近づいてきた。



宿「ふん。なにを怯えている。
あの夜、俺を舐め回すように見ておったやつはどこに行った」


がっかりだ、と彼は述べた。

彼はそのまま、はんっと息をつくとそっぽを向く。




『人間を殺しに来たのでは、ないの?』

宿「俺はそんなホイホイと殺さない。気が向いた時に暴れておるだけだ」

『そんなんで殺される人の身になりなよ…

でも、そうか…私を殺しに来てくれた訳ではないのか』

宿「なんだ、お前。殺して欲しいのか」

やはりお前は、愉快なやつだと
彼はまたクックと喉を鳴らす。



その姿に、自然と私は怒りを覚えた。

この後に及んで、まだ私を気まぐれにおもちゃのように扱おうというのか…


『あの日も、あなたのただの気まぐれだったのだろうけれど…私は全てを失ったのよ』


淡々と、感情的にならぬよう彼に述べる。

しかし一度剥き出した怒りの牙は、すぐには収まることを知らず…


『あなたのせいで、運命が変わってしまった。何でお前も死ななかったのかと、何度も周りから言われる毎日にもううんざりしてるのよ。

何故生きているのか、そんなの私が聞きたいのに…

ねえ、なんで私を生かしたの?』


気付かぬうちに、自然と手に力が入り

手の内に指が食い込んでいた。


『あれから、大好きな本も、学ぶ環境も、すべて失った。もう生きていたって楽しくない。

お願い、殺してよ。』




そう呟くのを最後に

涙がパタパタと、開いていた本に落ちた。




依然、彼からの反応はない。

呆れて、いい加減殺意でも持っただろうか…

いや、そうなってくれれば私の願いが叶うのだから
それに越したことはない。


わずかな望みにかけ、ゆらりと顔をあげる。



しかしそこには求めている影は見当たらない。



先ほどまで彼が立っていた場所は
もぬけの殻だった。





『…っ、ほんと、なんて勝手な…』


死への切望さえ叶えてもらえず、
だからと言ってここから救い出してくれるわけもなく



1人取り残された部屋がいつも以上に寒く感じ、

また目に熱いものがこみ上げてきた。

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ゆりあ(プロフ) - 最高に面白かったです!二人の関係性から、彼女の心情の変化、特にラストの締めくくり方が凄くジーンときました。素敵なお話をありがとうございます! (2020年12月29日 10時) (レス) id: 45a22d77c5 (このIDを非表示/違反報告)
しゅがー(プロフ) - 面白くて一気に見ちゃいました!笑源氏物語にも興味が湧きました!続編楽しみにしています! (2020年12月21日 22時) (レス) id: 13895ddbea (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - すごく面白かったです!続編楽しみにしてます!頑張ってください、 (2020年12月21日 20時) (レス) id: 8f9f2425a1 (このIDを非表示/違反報告)
鬼灯 - 一話から最終話まで一気見しました!ここまで真剣に読んだのは初めてですw 続編も頑張ってください! (2020年12月21日 18時) (レス) id: 0253c03d6e (このIDを非表示/違反報告)
ミズカ(プロフ) - 続編嬉しいです!ありがとうございます! (2020年12月21日 18時) (レス) id: 9ec620cc69 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アイコ | 作成日時:2020年12月18日 11時

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