6 ページ7
『…また、人を殺しにきたの?』
緊張のせいか口の中がカラカラだか
それに構わず、そっと尋ねた。
彼はそんな私の姿に、
滑稽だな、と呟き
ゆっくりと近づいてきた。
宿「ふん。なにを怯えている。
あの夜、俺を舐め回すように見ておったやつはどこに行った」
がっかりだ、と彼は述べた。
彼はそのまま、はんっと息をつくとそっぽを向く。
『人間を殺しに来たのでは、ないの?』
宿「俺はそんなホイホイと殺さない。気が向いた時に暴れておるだけだ」
『そんなんで殺される人の身になりなよ…
でも、そうか…私を殺しに来てくれた訳ではないのか』
宿「なんだ、お前。殺して欲しいのか」
やはりお前は、愉快なやつだと
彼はまたクックと喉を鳴らす。
その姿に、自然と私は怒りを覚えた。
この後に及んで、まだ私を気まぐれにおもちゃのように扱おうというのか…
『あの日も、あなたのただの気まぐれだったのだろうけれど…私は全てを失ったのよ』
淡々と、感情的にならぬよう彼に述べる。
しかし一度剥き出した怒りの牙は、すぐには収まることを知らず…
『あなたのせいで、運命が変わってしまった。何でお前も死ななかったのかと、何度も周りから言われる毎日にもううんざりしてるのよ。
何故生きているのか、そんなの私が聞きたいのに…
ねえ、なんで私を生かしたの?』
気付かぬうちに、自然と手に力が入り
手の内に指が食い込んでいた。
『あれから、大好きな本も、学ぶ環境も、すべて失った。もう生きていたって楽しくない。
お願い、殺してよ。』
そう呟くのを最後に
涙がパタパタと、開いていた本に落ちた。
依然、彼からの反応はない。
呆れて、いい加減殺意でも持っただろうか…
いや、そうなってくれれば私の願いが叶うのだから
それに越したことはない。
わずかな望みにかけ、ゆらりと顔をあげる。
しかしそこには求めている影は見当たらない。
先ほどまで彼が立っていた場所は
もぬけの殻だった。
『…っ、ほんと、なんて勝手な…』
死への切望さえ叶えてもらえず、
だからと言ってここから救い出してくれるわけもなく
1人取り残された部屋がいつも以上に寒く感じ、
また目に熱いものがこみ上げてきた。
979人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆりあ(プロフ) - 最高に面白かったです!二人の関係性から、彼女の心情の変化、特にラストの締めくくり方が凄くジーンときました。素敵なお話をありがとうございます! (2020年12月29日 10時) (レス) id: 45a22d77c5 (このIDを非表示/違反報告)
しゅがー(プロフ) - 面白くて一気に見ちゃいました!笑源氏物語にも興味が湧きました!続編楽しみにしています! (2020年12月21日 22時) (レス) id: 13895ddbea (このIDを非表示/違反報告)
空(プロフ) - すごく面白かったです!続編楽しみにしてます!頑張ってください、 (2020年12月21日 20時) (レス) id: 8f9f2425a1 (このIDを非表示/違反報告)
鬼灯 - 一話から最終話まで一気見しました!ここまで真剣に読んだのは初めてですw 続編も頑張ってください! (2020年12月21日 18時) (レス) id: 0253c03d6e (このIDを非表示/違反報告)
ミズカ(プロフ) - 続編嬉しいです!ありがとうございます! (2020年12月21日 18時) (レス) id: 9ec620cc69 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:アイコ | 作成日時:2020年12月18日 11時