【QK】ガラス瓶と天秤【sgi】 (ページ42)

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お店を出て再び手を繋いで、来た時より少し人通りが緩やかになった道を歩く。先ほどと同じ道、同じ景色だけれど、景色は違ってみえる、なんて浮かれすぎかもしれないが。私の歩幅に合わせてくれる彼に甘えて、ゆっくり足を進めて。

『しゅんき、』

「はーい？」

『しゅんき、くん』

「はいー、」

『駿貴くん』

最初に呼び捨てで呼んでから、まだ一度も発していなかった名前を呼べば、普通に返事を返してくれる。呼び捨てにどうしても慣れなくて、少し呼び方を変えて呼んでいれば、そっちの方が呼びやすい？なんて。

どっちでもいいけどー、なんて言う彼に、しばらくはこの呼び方じゃないと呼べないな、なんて。そんなことを思っていれば、名前を呼ばれて。

「ねえ、A」

『……はい、』

「俺、今日振られたらダメージでかいなーとか考えてた」

『え？』

「クリスマスに振られるのかーって」

『んー、たしかに、？』

「こんなに余裕ぶってても、不安で一杯だったんだからね」

不安でいっばいだった、なんて彼に言われて、いろんなこと考えさせちゃったんだな、って申し訳ないような嬉しいような。ごめんね、たくさん考えさせて。なんて言葉を彼に言えば、今こうしてるからいーの、なんて返ってくる。

『2人でこれからたくさん思い出作ろうね』

「ふは、そうだね」

歩きながら、彼にそんな言葉を。

最初に話した、元彼との思い出話は、今も心の奥に眠っているけれど、それを決して上書きするわけではなくて。彼との新しい思い出を増やしていきたい。

あなたと出会う前のたくさんの思い出は、ガラス瓶に詰めて蓋をして少し遠くに置いておくから。近くには新しいものを蓋を開けて並べておく、なんて言ったら綺麗事かな。

そうしていつか、あなたとの思い出が、私の心の中で溢れて、1番比重が大きくて、何にも変えられない、かけがえのないものになりますように、なんて。

彼を好きになった今はこうして願うだけ。

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