否定と事実 ページ2
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その時、とやらは突然やってきた。
こんなにも前触れがなかったことは、20年ちょっと生きてきた私にとって初めてのことで、こんなにも簡単になくなってしまうのか、まだ夢なのではないか、とすら思う。
「……………別れて欲しい」
数時間前、3年付き合った彼にそう告げられた。結婚、なんてことはまだ考えてすらいなかったけれど、こんなに長く恋愛をした初めての人で、この時間がずっと続くと思っていた。もちろん彼のことが好きだったし、彼もそうだと思っていた。
通っていた大学は違うものの、お互いに大学在学中に出会った私たち。出会いは、よくある共通の友達主催のバーベキューという名の、合コン。
出会った日に既に意気投合していて、その後何度か2人で会って告白されて、付き合って。お互い初めての恋人、というわけではなかったが、初めて恋人と行く海外旅行、とか初めての出来事も多かった気がする。
そしてもうひとつ。彼には大きな趣味、と言っていいものか、もはや分からないが特徴があった。それが、私たちが別れる原因にもなるのだが。
彼は大学のサークルでバンドを組んでいて。学生ながらに、小さなライブハウスでライブを定期的に行ったりしていた。インディーズでCDも出していたし、その界隈ではある程度の知名度はあったのだと思う。
大学卒業後も彼はアルバイトをしつつ、音楽を続けていて。私はそんな彼の夢を応援していたし、バンドメンバーとも面識があって、みんなのことが好きだった。
そして今日。別れ、と共に話された理由。メジャーデビューが決まった、と言う。私はそのことに対して、自分のことのように喜んだし、彼の夢が叶うきっかけになる出来事だと思った。
事実、それはそうなのだ。けれど、それとこれとはまた別の話らしく。彼の中では、夢を叶える1歩を踏み出すというときに、私、という甘えられる環境を無くしたかったらしい。
嫌いになったわけではない、むしろまだ好き、だけど今は目の前のことだけに集中がしたい、それが全てだった。今だけ距離をおけばいいのではないか、会う頻度を減らせばいいのではないか、私はそう思いもするが、それではだめらしい。
彼のことが好きな気持ちと同様に、彼の夢を応援したい気持ちは同じくらいあって。数時間話し合って、結果私たちは、別れを選んだ。
帰宅した今も実感なんて湧かないし、涙も出てこない。
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作者名：エンスイ | 作成日時：2021年3月12日 17時
