距離が縮まる瞬間 ページ18
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あれから、私たちは定期的に外で会うようになった。
もちろん、あの階段でも会ったりするのだけれど、もうすぐ冬に近付いているということもあり、あの場は単純に寒い。
今日は、お互い仕事が終わった後、半個室がある居酒屋にきている。お互い軽く飲みながら、近況を話し合う。
食事を始めてから、1時間くらいたったころ、ふくらさんが突然、口を開いて。
「ねえ、俺Aさんのこと、Aちゃんって呼んでもいい?」
『へえー?いーよ?、なんでまた(笑)』
「さん付けって距離ある気がしちゃって」
『そうー?じゃあ、拳くん?』
「え、呼んでくれるの」
『いーよ?でも慣れるまで時間かかりそう(笑)』
そう言えば、確かになんて目の前で笑う彼。
私は普段名前で活動しているから、さん付けからちゃん付けに変わっても、呼び方的に違和感は無いと思うのだが、拳くんの場合、もともとふくらさんと、苗字よりの方で呼んでいたので、なかなかのハードルだ。
『がんばります、拳くん。』
「楽しみにしてます、Aちゃん。」
『ふは、なにこれ(笑)』
少しお酒が入っていることもあってか、お互いにゆったりと、間が空いた話し方で。
ゆっくり進むこの時間が好きで、ついつい居座りすぎてしまうけれど、お互い明日も仕事ということで、本日は解散。
お店を出たところから、タクシーを拾うまで、少し2人で歩いて。
そういえば、と話したかったことを思い出して。
『拳くん』
「ふふ、なに?」
『笑わないでよ(笑)』
「ごめんごめん、どうした?」
『今度いつ、あの局いる?話したいことあって』
「んー、来週あたりあったと思うけど、LINEするね?」
『うん、ありがと』
「会うって決めて、あの場所で会うの初めてだね」
『ほんとだね』
外でも会うようになった今、わざわざあの場所で話したいこと、伝えたいことがあって。
拳くんに出会った場所だから。あの場所で聞いて欲しくて。
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エンスイ(プロフ) - しほうさん» コメントありがとうございます…!fkrさんも主人公もどちらも好きでいてくださるコメントでとてもありがたいです(T_T ) 読んでいただきありがとうございました! (2021年4月21日 14時) (レス) id: 275b77238f (このIDを非表示/違反報告)
しほう(プロフ) - めちゃっくちゃ面白かったです。fkrさんの優しさやある種の男らしさ、主人公さんの覚悟に胸がぎゅうっとにりました。読後の余韻がすごい…。素敵な作品を、どうもありがとうございました。 (2021年4月21日 10時) (レス) id: 5a9db02a2a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エンスイ | 作成日時:2021年1月28日 0時