＃ ページ10
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「……これしか方法が思いつかなかったんです。そううまく総帥を騙せるのか分かりませんが、このまま黙っていればどうせ殺されるんです。何より──」
「──もう殺したくはないと？」
Aはようやく振り返る。
「──はい」
その瞳に一切の揺るぎはなかった。
黙る鬼道に、Aは吊り革を離して鬼道に向き直る。
「お願いしますっ！」
鬼道が微笑むと同時に、電車が駅に辿り着いた。回送に切り替わるため、わらわらと人が降りていく。
「考えておこう」
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Aが電車を降りて街中を走り抜けた頃には、辺りはすっかり夜闇に沈んでいた。人通りを避けに避け、小さな沢の脇道までやってきて、ようやく立ち止まる。ひどく息が切れていた。
「ここまでくれば……」
「──もう終わりか？」
ゾッと背筋を凍らせたAの背中を、一星が突き飛ばす。
Aの体が宙に浮き、沢までの坂を転がった。笑みを浮かべた一星がゆっくりと滑り降りると、一番下まで転がり落ちたAが体中を擦り傷と打ち身だらけにした痛みにうめいていた。
「……うっ……ぐっ！」
一星はスマホで時間を確認する。九時過ぎをさしていた。
「わざわざこんな人気のない場所に逃げるなんて、何を企んでるんだ？」
「……も、もうやめませんか？」
Aは歯を食いしばって立ち上がった。
「……何度も言いますけど、俺は自分の
一向に能力を見せないのが気になるんです。心が読めるにしては鈍すぎる。別の能力があるはずなのに、追い詰めても使わない…………待て」
一星の思考が真実に辿り着く。
「……無能力？」
Aは一切の顔色を変えない。
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