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「南雲、十時頃だ。俺の磁力で貼りついた時計がそれくらいだったろ？」
「お、おうそうだな。十時だ」
クラスがざわめいた。
「つまりお前にはおよそ今夜八時頃から十時ごろまでアリバイがあるってこったな？」
……なんだ？
頷きながら一星は違和感を感じ始めた。
「ちなみにその後は？」
「その後は……別に、部屋に戻ってシャワー浴びてましたね」
「それを証明できるか？」
「できませんけど……なんです？」
不動は少し黙って、様子を伺うようにゆっくりと紡いだ。
「柊が刺されたのは日付が変わった十二時より後だ」
……な……に！？
なぜそうなる！？ 柊を刺したのは九時頃だぞ！？
「確かなんですか？」
「どうして確かじゃないと思うんだ？」
「……待ってください。柊さんがそう言ったんですか？」
一星の不穏な色を帯びた瞳に、不動は振り返った。
「おい涼野。話してやれ」
立ち上がったのは涼野だった。
「あれは十二時前。私は夜景を見るために外に出ていたんだ」
歩く橋の上、現れたのはAだった。
──こんにちは！
──柊、こんな時間に散歩か？
──夕方に甘いものをたくさん食べたので運動ですねー。
そこでAは涼野の手にスマホが握られていることに気がついた。
──あ、今何時ですかね？
──十二時だ。私もそろそろ戻る。君も早めに帰りたまえ。
──そうですね。おやすみなさーい！
そのまま、彼女は走り去って行った。
「……十二時ごろに会った時、柊はまだ無事だった。いつも通りのな」
「この証言を聞くに、柊が襲われたのはこいつと別れた後だと考えられる」
……なるほどな。
夜道に黒い服。普段通りの演技をされては、血が滲んでいても気付かれないだろうな。
「(……分かったか？)」
Aは再び、一星にしか分からないよう笑みを浮かべた。
お前に能力を用いた鉄壁のアリバイがあるというのなら、私は犯行時刻そのものをずらして周りに見せるだけのこと。
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