プロローグ ページ1
喝采と歓声とが、やけに現実味のない私の体を貫いていく。
あたり一面は虹色に輝き、その光源のひとつひとつで見える群衆の表情は大輪の花のように晴れやか。
ぐっと前を見据える。虹色の真ん中で弾ける光があったが、遠くてよく見えない。
私が何をしているのかも、わからなかった。
歓声の中に、音楽が聞こえ始めた。
初めから流れていたのか、それとも今突然始まったのかはわからないが、それまで何かに気を取られていた私はその音楽によって意識を引き戻された。
これは歌だ。希望と夢に満ち満ちた、愛の歌。初めて感じるような、それでいてどこか懐かしいような不思議なエネルギーに溢れていて、ゆらゆらと退屈に立ち尽くすだけの私の意識を刺すように刺激していく。
活力を得た私の体は改めて自らを認識するが、自分という存在がいまいち掴めない。同時にこの空間と状況さえ把握に難儀して、全てが他人事のように思えた。
自分は、誰なんだろう。
――先輩が、導いてくれたんです。
瞬間、私はその声に全神経を支配されたような感覚になった。自分と同世代の、女の子の声だ。
同世代と認識したからには、私はこの声と近い年齢をもつ存在なのだろうか。たとえ死んだようでも、生きている、命ある人間。
「誰?」
あなたは誰、と感じると、それは声になった。
私のまわりを埋め尽くしていた虹色はいつの間にか遠ざかり、歓声も雑踏も、全てが離れていった。
私に語りかける存在がそこにあるはずなのに、否そこにいるのに、私はその存在を認識することができない。意味がわからなくて、もどかしくて、虹色の光が霞んだ。
私と相対する何かは、問いかけに答えず笑った。ああ、君は笑うんだね。いつの間に君はそんなに柔らかい笑顔を見せるようになったのだろう。
はっとした。
私は、君を知っている。
君が笑うことのできる人間であることも、それまで無表情がデフォルトだったのに笑えるようになったことも。私は君を知っていた。
――先輩も、笑ってください。
ああ。
やっとわかった。君のこと、まだ全然知らないけど、よく知っている。矛盾しているけど、つまりはそういうことだ。
ねえ、私が君たちを導いたんじゃなくてさ、君が私をすくい上げてくれたんだよ。物語から外れて平凡な日々にゆらゆら浸かっていた私を、引っ張り出してくれたんだ。
虹色が、現実味を帯びていく。
喝采は大きくなって、私の耳を劈く。
これは紛れもない、私の現実だ。
夢ではなく……。
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更科(プロフ) - あひる様さん» お返事遅れてしまってごめんなさい。読んでくださる方がいる限りは頑張ってみようと思います。応援ありがとうございます。 (2021年5月28日 23時) (レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
あひる様 - やばい!物凄く!!!好きですぅううううう!!!頑張ってくださいっ!!!!応援してます!!! (2021年5月20日 23時) (レス) id: fee7c2866e (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - 姉系チート2号(データ消えちまった成)さん» こんにちは。わざわざコメント頂きありがとうございます!今は更新が難しい状況なのですがきちんと書きたいという思いはありますので、ゆっくりお待ちいただければと思います。 (2020年2月3日 11時) (レス) id: 749f88a822 (このIDを非表示/違反報告)
姉系チート2号(データ消えちまった成)(プロフ) - 達筆な文章に惚れました!無理はしない程度に、更新を楽しみにしています! (2019年12月17日 13時) (レス) id: 41a0229c91 (このIDを非表示/違反報告)
更科(プロフ) - さくぷらさん» さくぷらさま、コメントありがとうございます!返信が遅くなり申し訳ありません…。儚く透明感のある主人公を目指しておりますので大変光栄なお言葉をありがとうございます。ゆっくりになってしまいますが更新頑張ります! (2018年3月29日 11時) (レス) id: d6f890f9ad (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:更科 | 作者ホームページ:
作成日時:2017年11月29日 18時