魔術師は見定む/2 ページ12
……完全に迷った。
途方に暮れて、私は辺りを見回した。行く先には果てしないほどに長く続く廊下、後ろにも廊下。校舎内に入りこめたのは良いとしよう、けれど問題はその後だった。
入るなりすぐ話し声が聞こえて、その声から逃げて反対方向へ。しかしそこでも足音が聞こえてきて別方向へ逃げて、を繰り返していたら、すっかり迷子になっていた。
見慣れない風景に、目頭が熱くなる。迷っただけで泣いてしまいそうになる自分が恥ずかしくて、静かに顔を伏せた。
……このままじゃ、帰ることすら出来ないかもしれない。
やっぱり来なければ良かった、と後悔し始めたとき、柔らかい声が耳朶を打った。
「＿＿＿＿探したヨ」
後ろから聞こえたその声に、びくりと体が震えた。終わった、なんて思いながら振り返れば、そこには少年の姿。さすがはアイドル科、整った顔立ちをした彼の琥珀色の瞳が、まるで品定めをするかのように私を見ていた。
「佐倉A。あってル？」
「……え、あ、はい」
語尾に妙な抑揚を持つ彼は、私の返事を聞くとさっさと歩き出した。「ついておいデ」と促されても、誰か分からない上にどこにいくかも知らないし、怖すぎる。
と、硬直する私に気づいて、少年は振り返った。麗しくもつり目がちな目と、きゅっと結ばれた唇がキツそうで、萎縮してしまう。
が、彼はそんな容姿に合わない、優しい声色を発した。
「そっカ、自己紹介がまだだったネ。ボクの名前は逆先夏目、君と同じ一年生だヨ。零にいさんに君を連れてこいッテ、頼まれただけだかラ。だかラ＿＿＿＿『怖くないよ』」
最後、彼の声が、雰囲気が変わった気がした。慈愛に細められた瞳に、ひどく安心感を覚える。こくりと頷くと、逆先さんは再び踵を返した。「軽音部室まで案内しよウ」
そのままスタスタと歩き始めた彼についていく。何故だか、周りには誰一人いない。人を避けているわけでもないのに、まるで魔法にでもかけられたかのように私と逆先さんしかいないのだ。
結局、軽音部室に着くまで誰にも会わなかった。……運が良かったのかなぁ。
「じゃあボクは用があるかラ、ここデ。零にいさんはこの中にいるけド、寝てたら叩き起こせば良イ」
なにやら物騒なことをいう逆先さんに、頭を下げる。
それから、慌ただしく部屋に入っていった私に、先ほどの笑みを打ち消して＿＿＿＿酷くどうでも良さそうな瞳を向けながら、彼は溜息をついた。
「……零にいさんッテ、本当にお人好しだよネェ」
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まめだいふくもち(プロフ) - こたつさん» こたつさん、ご指摘誠にありがとうございます。漫画などでよく見る表現だったのですが、なにか事件が関連していたのですね…。勉強になりました。つきましては、その表現を修正させていただきます。コメントありがとうございました！ (2017年10月29日 15時) (
レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
こたつ - ドラム缶に東京湾というワードは某事件を連想させるので修正した方が良いのではないでしょうか？ (2017年10月29日 9時) (レス) id: ae4fce482d (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - 抹茶粉さん» 抹茶粉さん、コメントありがとうございます！とてもとても嬉しいです…！私もれいさんにプロデュースされたい！という思いから書き始めたので、光栄です笑 (2017年8月2日 22時) (レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶粉 - 零さんにプロデュースされるなんて夢見たいです…！もう始まりから胸のきゅんきゅんが鳴り止みません！笑 続き楽しみにまってます！更新頑張ってください！ (2017年7月26日 16時) (レス) id: 634a139de2 (このIDを非表示/違反報告)
まめだいふくもち(プロフ) - ベリーさん» ベリーさん〜！ご指摘ありがとうございます。修正してまいりましたのでご確認ください。そして、またこのような事態があればお知らせください。 (2017年1月14日 13時) (レス) id: 8f73a5bd97 (このIDを非表示/違反報告)
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