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10 過ぎた期待 ページ11

厳島から少し離れた山道に入り、木陰にエリを寝かせた。
日も暮れてしまったので、追手が来ない事を確認して焚き火の用意をした。

エリの意識はまだ戻っていない。

時間はさほど経っていないので、まだ対処は間に合うはずだ。

頭や足にこそ矢は受けていないが、上半身に刺さった数は決して少なくない。
特に腕は出血がひどく、急いで止血しなければ危ないかもしれない。


…服を脱がせたら怒るだろうか。

矢や血の付いた服の処理でどの道脱がせなければならないのだが、流石に抵抗が無いわけではない。

特に最近は、どこか避けられているような気もしていた。
また文句を垂れるかもしれない。


こちらの心配も知らないで。


「…フッ」

包帯姿で呑気に怒るエリを想像し、思わず笑ってしまった。

よくよく見れば、胴に刺さった矢は胸当てで止まっていた。
本当に運の良い奴だ。


「…なぜ」

後ろから声がした。
振り向くと、水を汲みに行っていた雄久が戻っていた。

「なぜ今、笑っていたんですか」

「…くだらない理由だ。それより、腕の矢を抜くのを手伝え」

雄久は納得していない様だったが、指示には素直に従った。

矢を抜いて袖をまくり、汲んできた水で傷口を洗う。
包帯には俺の着物の一部を斬って代用した。


「…常真さまが、あの攻撃をよそくできていれば」

包帯を巻いていると、雄久が呟いた。

「そうなれば、エリさんも僕をかばってこんな怪我…」

「お前が守るんじゃなかったのか?」

歯ぎしりする雄久に、つい言い方が冷たくなってしまった。
雄久はキッと俺を睨む。


「…いや、お前を責めるつもりはない。俺の責任だ」

毛利軍を見て思い出した。戦国乱世は、決して甘くない。
今までどうにかなってきただけで、本当は生きていくというだけの事も争いの上に成立させているものだ。

家康の力を信用し切っていたのもあるが、今回は…


「お前達を、信じ過ぎた」

「……」


心の何処かで、この二人ならどんな逆境でも覆してみせるかもしれないという期待を抱いていた。

二人に負担をかけ過ぎていた。



エリに矢の雨を降らせたのは俺だと、俺は知るべきなのだ。


包帯を巻く手に力がこもる。

意識のないエリが小さく呻いた。

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作者名:神有月 | 作者ホームページ:http://Kamiari-Tuki  
作成日時:2018年4月14日 15時

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