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雪の日 ページ4

その日は寒かった。



まあ、例年二月というのは寒いものなので
特筆すべきことではないんだけれど、
そのことははっきりと覚えていた。

俺は兄者が去年の誕生日にくれた赤いマフラーを巻いて、
父さんのお下がりの耳当てをして、
母さんの編んでくれた青い手袋をしていた。

ちなみに母さんが編んでくれた手袋の色は、
俺が青にしてほしいって頼んだからだ。
ほら、兄者の色だからね。

兄者は母さんの編んだ赤色のニット帽を嬉しそうに被っていた。
(本人は隠しているつもりらしいけど丸分かりだった。)



家族四人で雪の降る街を歩いて、買い物に出ていた。
兄者は雪というものを初めて見たらしく、
きらきらと目を輝かせ、
俺は久しぶりに降った雪に大興奮していて、
父さんと母さんは俺たち二人を見て笑っていた。




「ほら、兄者、雪って面白いでしょ?」

「すごい、白い」

「触ってみる?」

「ん…」



普段饒舌な兄者が言葉少ななのが新鮮に感じて、
俺はわくわくした。
俺だって何度も見てるけどこんなに楽しいんだ、
初めて見た兄者がわくわくしないわけない。



「どう?」



手袋が濡れるのも構わず、俺は手一杯に雪をのせて兄者の手に移した。


「わ、すごい、つめたい」


兄者の青い瞳に雪の結晶が反射してきらきらしている。
そこからはもう反射だった。

「あにじゃあああ」

兄者の手から雪がこぼれるのも構わず、
ぎゅっと飛びつくように抱きしめた。
ああ、愛しいなって、兄者が家族で良かったって、そう思った。
兄者がびっくりして一瞬身体がこわばらせる動きすら愛おしくて、
もう、おかしかった。

しばらくこのままでいれば、紺色のジャンパーから鼓動が聞こえるんじゃないかって思うぐらい、兄者は俺にとって一人の「人」だった。
俺の体と兄者に挟まれていた手がするりと抜かれ、おれの背中に回された―


「…っつめたああっ!」


―訳ではなかった。


「兄者ぁ!つめた!冷たいって!鬼か!?」


手の中に残っていた雪を背中側から首元に差し入れたのだ。
てててっ、と俺から離れて兄者がこちらを振り向いた。

「ばあか、おとじゃ」

兄者の悪戯っぽい笑顔がきらきら雪に反射した。
きゅっと口角を上げる兄者に一泡吹かせてやりたくて、俺は手にいっぱい雪を持って兄者に向かって駆け出した。

雪の日→←月の似合う髪



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作者名:榎本 | 作成日時:2018年8月13日 23時

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