▼ ページ11
.
『あの、とりあえずどうぞ、お座りください……』
「そんな気ぃ遣わんとって。すぐ戻るつもりやから」
『……そうですか』
椅子を勧めようとした私を手で制し、トントン様は笑う。
ただ単に遠慮している風ではなく、本当にすぐに用件を済ませてしまうつもりであるらしかった。それを察した私は、羞恥心を押し殺して再び彼に向き直る。
『何のご用でしょう？』
「今日な、サヴァン公国に乗り込むんや」
『え……』
乗り込む、って。
「グルさんのいつもの悪い癖や。仕返しするんやと」
『は、はぁ……そうなんですか』
呆れたような、それでいて悪戯を許す親のような、そんな顔。
「君もあの面会には立ち会ってたし、毒の件でも世話になったからな。一言報告だけでもと思ってん」
『それで、わざわざ……？』
彼らが公国への報復のために動いていたのは知っていたし、何かしら行動に移すのだろうなとは思っていたが、それは私には関係のないことと括っていた。
それを書記長自ら、ここまで来て報告に来るとは。なんと律儀な人だろう。
『トントン様も、出向かれるのですか？』
「グルさんが行くって聞かんからな。護衛兼お目付け役や」
『そうでしたか……お忙しいのに、ありがとうございます』
「俺が勝手にしたことやから気にせんでええよ」
『……あの、お気を付けてくださいね』
彼の言う"仕返し"がどの程度のものなのか、それは彼の表情からは窺えない。
彼らが下手を打つ有様は想像出来ないけれども、万一ということもあるし、気を付けて、というありきたりな言葉を言わずにはいられなかった。
しかし、トントン様は目を見開く。
「何するつもりか、聞かへんねや？」
『えぇ、まぁ……私が聞いても、お役には立てないでしょうし』
「……そっか」
気にならない訳ではない。知られるものは知っておきたい。
でもそれは、一応、とつく程度であり、ましてや、これから大仕事を控えている人物に根掘り葉掘り聞き出すなど。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 474人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「実況者」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
江之子(えのこ)(プロフ) - ささん» 初めまして、コメントありがとうございます。最新話のみならず読み返しまでしていただけるとは…。どうぞ、これからも長々とこの作品をご愛顧してもらえたらと思います！応援感謝です。 (2017年6月6日 16時) (
レス) id: d4b2bfad59 (このIDを非表示/違反報告)
さ(プロフ) - 初めまして。えのこ様のお話が大好きです。最新話を追いつつ初めから読み直しては楽しませてもらっています。これからも応援しております！ (2017年6月6日 15時) (レス) id: 91a8ff52f5 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - ahirudokuro112さん» コメントありがとうございます。毎日気にかけてくださるほど印象を残せたこと、一書き手としては嬉しいばかりです。それをこうして文字にして伝えてくださったことをとてもありがたく思います！今度とも、どうぞよろしくお願いします。 (2017年6月4日 0時) (レス) id: 7dbb78881f (このIDを非表示/違反報告)
ahirudokuro112(プロフ) - 初めてコメントさせてもらいます。いつもとても楽しく読ませて貰ってます。気づけば毎日朝と夜に更新されてないかチェックするのが日課になってます笑。ぜひこの気持ちをお伝えできたらとコメントさせていただきました。 (2017年6月3日 23時) (レス) id: f8fb3df520 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - 井戸らさん» コメントありがとうございます。私の場合、気が付いたらこんな文体になってまして、くどいかな…とドキドキしながら書いてる面があるのですが…。それを褒めていただけるのは何より嬉しいです。今後もお楽しみに！ (2017年5月27日 23時) (レス) id: 7dbb78881f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：江之子
| 作成日時：2017年5月22日 1時
